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抗生物質、危うい供給 不利益は患者に  学会が国に対策要請

2019.10.24 17:38
 国内の医療現場で今春以降、異常事態が続いている。ある会社の抗生物質(抗菌薬)の供給が、海外の製造現場の事情で停止。その影響で他の抗菌薬も品薄となり、感染症の診療に携わる医師らから「最適な薬が使えない」と悲鳴が上がっているのだ。現時点では患者の命に関わるような問題は明らかになっていないものの、最終的な不利益は患者に降りかかる。感染症関連の4医学会は、抗菌薬の供給が不安定なのは製造の過度な海外依存が原因だとして、国に見直しを要請した。
 ▽二重の打撃に
 供給が止まったのは富山市の日医工が販売する注射薬「セファゾリン」。黄色ブドウ球菌という細菌による重症感染症の治療の第一選択薬であるほか、外科手術の感染予防目的で広く使われる。同社はこの薬で約60%の国内シェアを占めている。
セファゾリン
セファゾリン

 


 原薬を同社に輸出するイタリアの製造所での不純物混入と、原薬の原料を供給する中国企業の製造停止が重なり、今年3月に在庫がなくなった。
 厚生労働省は代替薬のリストを公表したが、それらの薬も入手しにくい状況が発生した。千葉県浦安市にある東京ベイ・浦安市川医療センター(約350床)は、セファゾリンなし、代替薬も不足という二重の打撃に直面した施設の一つ。枦秀樹(はし・ひでき)薬剤師は「医薬品卸会社は、過去の注文実績を重視して薬を納入するため、セファゾリンがないからと新たに代替薬を注文しても、実際に必要量を確保するのは難しい」と話す。
 代替薬の効果はセファゾリンに劣るほか、入手しやすい抗菌薬を漫然と使えば、薬が効きにくい耐性菌を増やす恐れもある。感染症内科の織田錬太郎(おだ・れんたろう)医長は「少ない選択肢の中で患者さんへのマイナスをどう最小限にするかを考えつつ、耐性菌も防ぐ必要があり、綱渡りの感覚だ」と言う。
 ▽原価割れ製造
 日医工は「秋の終わりか年末にセファゾリンの供給を再開したい」としている。だが今度は別の数社が、違う抗菌薬の供給が秋以降に滞る見通しであることを明らかにした。これも中国の製造所の事故が原因という。
 日本化学療法学会など感染症の診療に関わる4学会は8月末「海外の状況によって国内の感染症患者の命が簡単に左右されるのは問題だ」として、重要な抗菌薬の生産体制を国が把握し、国内で生産しても製薬会社が利益を確保できる薬価の設定などを求める提言を厚労相宛てに提出した。
記者会見する学会幹部ら 
記者会見する学会幹部ら 

 


 日医工のセファゾリンの場合、主力の1グラム製品の薬価は100円余り。製造費を下回るという。「専門家として恥ずかしいが、私たちも今回の問題が起きるまで知らなかった。これでは安定供給は望めない」と日本環境感染学会など2学会の副理事長を務める松本哲哉(まつもと・てつや)国際医療福祉大教授は話す。

 ▽世界で問題に
 提言を受け取った厚労省は「指摘を重く受け止め、できることを検討したい」(経済課)とするが、どこまで何ができるのか、具体的な見通しは立たない状況だ。
 抗菌薬の供給の不安定さは世界でも問題になっている。特許が切れて薬の価格が下がると、コストの安い中国やインドの数少ない企業に製造が集中。1社の事故が世界的な抗菌薬不足につながった事例もあるという。
 薬剤耐性菌を減らすため抗菌薬の適正使用を啓発している国立国際医療研究センターの具芳明(ぐ・よしあき)室長は「基本的な抗菌薬の供給が滞れば、耐性菌対策どころか医療全体が影響を受ける。安定供給を実現するには、国内外のさまざまな分野の関係者が協力して取り組む必要がある」と話している。(共同=吉本明美)

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