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「見果てぬ夢」実現を フェローの旗で五輪参加へ  デンマーク領フェロー諸島

2019.10.15 16:47 共同通信

 フェロー諸島はデンマーク領ながら本国から約千キロ離れ、独自の伝統文化と言語を持つ自治領だ。本国は欧州連合(EU)に加盟しているがフェローは未加盟、言語もデンマーク語よりアイスランド語に近い。
 約5万人の自治領人口のうち、1万8千人がスポーツクラブの会員という“スポーツ国”。サッカーのフェロー代表戦には人口の10%、5千人の観衆が集まるという。
 「白地に赤と青のスカンディナビア十字、フェローの旗を掲げて五輪に参加したい」。島民が一丸となった国際オリンピック委員会(IOC)への働き掛けは40年以上になる。見果てぬ夢には終わらせない―。新たな展開を模索する。

 ▽上がったハードル
 3月、大小18の島々からなるフェローを訪ねた。コペンハーゲンから飛行機で2時間、空港から車で海底トンネルを抜け、隣島の政庁所在地トースハウンへ。雪をかぶった山の斜面に羊が放牧され、海辺にはサケの養殖場が見えた。一瞬の晴れ間を冷たい雨がかき消す。
 自治政府首相のアクセル・V・ヨハンネセン(46)は元サッカー選手だ。IOCがフェロー諸島スポーツ連合・オリンピック委員会(FCSOC)を国内オリンピック委員会(NOC)として認めず、単独で五輪参加ができない現状にいら立ちを隠さない。
 「政府、議会を持ち、貿易をして、多くの分野でフェローは国際社会に認められている。なぜ、五輪だけが駄目なのか」

デンマーク領フェロー諸島自治政府首相のアクセル・V・ヨハンネセン(右)と同諸島スポーツ連合・オリンピック委のヨン・ヘストイ副会長。中央はフェローの旗=3月、トースハウン
デンマーク領フェロー諸島自治政府首相のアクセル・V・ヨハンネセン(右)と同諸島スポーツ連合・オリンピック委のヨン・ヘストイ副会長。中央はフェローの旗=3月、トースハウン

 本国政府や北欧諸国NOCの支持を受け、フェローは1984年からパラリンピックに出場。サッカー、水泳、柔道など8競技で国際競技連盟(IF)に加盟している。
 75年、フェロー・スポーツ連合はIOCに単独で五輪参加を求めたが、IOCは「少なくとも5競技でIFに加盟することが条件」と回答。その後、フェローは五つのIFに加盟し、82年に独自のオリンピック委員会をつくりFCSOCとして組織を発展させ、環境を整備した。
 これを受けて、IOCは87年に「条件をクリアした」としたにもかかわらず、フェロー加盟案は理事会では取り上げられず、先送りされていた。
 進展のないまま、IOCは96年に五輪憲章を改定し、NOC承認の条件は「独立国家として国際的に認められていること」と変更。加盟のハードルが跳ね上がった。

 ▽全ての人のため…
 FCSOC副会長ヨン・ヘストイ(60)は「87年に受理された参加申請は96年以前のルールで扱われるべきだ」とIOCの対応を批判する。
 80年代にはオランダ領アルバ、米領グアム、英領バージン諸島などのNOCが承認されている。「IOCのバッハ会長は全ての人のためにオリンピック精神があると言う。でもフェローだけが該当しない」と皮肉る。
 カトリン・ダクビャルツドッティル(50)は88年ソウル・パラリンピックの競泳女子(運動機能障害)100メートル自由形で銀、同背泳ぎで銅メダルを獲得、表彰式ではフェローの旗が揚がった。「(デンマーク国旗ではなく)白と赤、青。私たちの旗、私たちの色だった。感激したわ。でも一緒に練習し頑張った健常者がフェロー代表として五輪に出場できないなんて不平等よね」。現在は水泳コーチを務める彼女は首をかしげた。

スイミングクラブで、子どもたちを指導するソウル・パラリンピックのメダリスト、カトリン・ダクビャルツドッティル(左から2人目)=3月、デンマーク領フェロー諸島トースハウン
スイミングクラブで、子どもたちを指導するソウル・パラリンピックのメダリスト、カトリン・ダクビャルツドッティル(左から2人目)=3月、デンマーク領フェロー諸島トースハウン

 フェローは90年、欧州サッカー選手権予選に参加、ホームゲームだった最初の試合は天然芝がないためスウェーデンで行われ、1―0でオーストリアを破る番狂わせを演じた。8歳の時にこの試合を見てサッカー選手を志したアトリ・グレガセン(37)はフェロー代表の現主将として活躍、「試合でフェローの歌を歌うたびに小さな島を誇りに思うんだ」と言う。

 ▽粘り強く訴える
 競泳男子のパル・ヨエンセン(28)は2012年ロンドン、16年リオデジャネイロ五輪にデンマーク代表で出場し、リオ五輪開会式はフェローの小旗を持って行進した。「デンマーク選手団も了解してくれた。念願がかなった。最高の思い出になったよ」と振り返る。
 競泳女子背泳ぎでデンマーク代表として東京五輪出場が有力視されるシグニルト・ヨエンセン(18)は「いつの日か、フェロー代表として、フェローの旗を振って五輪に出たい」と目を輝かせる。
 FCSOCは昨年11月、25年までにサッカー競技場、50メートルプールなど施設を拡張する計画を発表、五輪参加運動の継続を表明した。欧州オリンピック委員会が主催する今年6月の欧州競技会では、4競技でフェローの単独参加も決まっている。
 「最初は見上げるだけだったけど、ようやくベースキャンプに着いた。広報活動を充実し、IOC委員に粘り強く訴える。成功するまでキャンペーンは続く」。副会長のヘストイはその歩みをエベレスト登頂に例えた。(敬称略、文・原田寛、写真・播磨宏子)

取材後記

「国」の解釈は

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IOCは1996年改定の五輪憲章で「“country”(国)は独立国家」と規定、NOCの新規承認が難しくなった。だがワールドカップを開催する国際サッカー連盟(FIFA)は「country」を広義に解釈、各サッカー協会の活動を支える。フェロー諸島のほか英国のイングランド、ウェールズなども認めている。加盟数は211でIOCの206を上回る。
 フェローは独立国家としての五輪参加は求めていない。ヘストイは「自治領のフェローとグリーンランド、本国デンマークがそれぞれ国際的に活動することがデンマーク王国の結束を証明する」と言う。スポーツを愛する島民の願いはIOCに届くだろうか。(敬称略)

 

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