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「ときを結ぶ」(1) 「クラウドファンディング」

2019.9.13 17:22 共同通信
 

胸にともる祖母の願い

  希望の光を過疎の町に 20代女性宮司の挑戦

 97の石段が中空に向かって真っすぐに伸びる。木漏れ日を感じながら歩みを進め、社殿へとたどり着いた。佐賀県大町町の福母八幡宮(ふくもはちまんぐう)は、9世紀創建の歴史ある神社だ。

 福母八幡宮で宮司を務める佐藤美波=佐賀県大町町
 福母八幡宮で宮司を務める佐藤美波=佐賀県大町町

 2017年12月、石段の両端に発光ダイオード(LED)の優しい明かりが初めてともり、古色を帯びた神域を照らした。「大町が笑顔に包まれますように」。紙の灯籠には人々の思いのこもった、それぞれの言葉が。過疎の町に活力を取り戻す祈りを込めた194の希望の光だ。「神社として地域に貢献したい」と願う宮司佐藤美波(28)が発案した。
 費用はインターネットで資金を集めるクラウドファンディング(CF)でまかなった。古来、時と人をつないできた神社に、新たな結びの力を持つインターネットを取り入れる。平成生まれの女性宮司による挑戦が始まった。
 ▽10年日記
 炭鉱で栄えた大町町は1950年ごろに人口2万3千人を超え、小学校は50年代後半、児童数4千人のマンモス校になった。炭鉱が69年に閉山し現在の人口は約6500人まで減少、商店街はシャッター通りと化した。

 

 佐藤はこの町で生まれた。母方は代々神職を務める「社家(しゃけ)」。祖父も神職だが、郵便局勤務だったこともあり、宮司は隣町の宮司が兼務していた。両親は特に神社と関わりを持たず、佐藤が神職を意識したのは七五三の時。普段と異なる祖父の姿に憧れを抱いた。「神事独特の緊張感がたまらなかった」という。
 やがて思春期が訪れ、存在にまつわる悩みを抱く。なぜ生まれてきたか、何のために生きるか。眠れないほど考え続けていたある日、母が洗い物をしながら軽い口調で言った。「神社を継ぐためなんじゃないの」。佐藤の目からうろこが落ちた。そうか、私はそのために生まれてきたんだ。
 神職の資格を取るために国学院大神道文化学部へ。4年生の時、祖母が亡くなった。福母八幡宮の運営事務を一手に引き受け、真面目にこつこつと働いてきた祖母だった。
 「あなたのことがたくさん、出てくるよ」。母の言葉で祖母が残した10年日記を開いた。書かれていたのは、佐藤が神職になり東京から戻ってくることの待ち遠しさ。「パッと見ただけでいっぱいありました」。神社を継いでほしいと言葉に出さなかったが、気持ちは分かっていた。それでも直筆の文字を目にして涙があふれそうになり、日記をパタリと閉じた。
 祖母はもういない。すぐに帰る意味はあるだろうか。女性の神職が多い東京で働くことが頭をよぎり、ゼミで指導を受ける准教授の藤本頼生(45)に相談した。「思い切り悩んでみたら」。神職でもある藤本は、常に祖母の立場から佐藤に話をした。「自分の人生にはいつも祖母がいた」。そう思うと、心が決まった。2週間後、佐藤は藤本に言った。「帰ります」

かつて炭鉱町としてにぎわった商店街。今はシャッターをおろした店が多い=佐賀県大町町
かつて炭鉱町としてにぎわった商店街。今はシャッターをおろした店が多い=佐賀県大町町

 ▽エール
 将来を見越し、藤本ゼミで過疎地の神社について学んだ佐藤だが、新たな何かを打ち出すのは大変だった。そんな折、藤本から「こんなやり方もある」と示されたのがCF。大町町のCF経験者の支援も得て、企画書づくりから取り組んだ。ハードだったが、自分がなぜ神職になり何を目指すのかを文字化し、やりたいことが明確になった。CFは成功し、目標を超える資金が集まった。
 沈みがちな町に希望の明かりをともす。実現した佐藤のアイデアは町の人に喜ばれた。「うれしかった。ここに神社があって宮司がいることを知り、応援してもらえるようになった」
 ▽未来志向
 CFを始めるに際し、複数の会員制交流サイト(SNS)に参加した。情報を積極的に発信、社務所を使った神道講座やヨガ教室も開くと、参拝者は増えた。「奉賛金のように神社にはCF的なものがもともとある」と考える藤本は、CFやSNSを用いた佐藤の実践を、現代社会に適合させた試みとして評価する。
 女性宮司は全国で700人強。平成の30年間で倍以上となったが、男性宮司の10分の1以下だ。しかも佐藤はまだ20代。藤本は「社会人としての経験の浅さやさまざまなしがらみ、少子高齢化といった社会的課題もあるが、困難を一つずつ乗り越えながら進んでほしい」とエールを送る。
 神職1年目の祭事や社務所の上棟式で、奉仕する佐藤の周りをチョウが舞った。不思議な出来事だった。周囲は言った。「あれはきっと、おばあちゃんよ」。祖母の願いは胸にともり、宮司は自分で41代目。未来志向の佐藤だが、先人がどれだけの覚悟を持ってここまでつないできたのだろう、と思う。
 「新しいことをしながら、神職として一つ一つ積み上げていきたい」。社務所の電話は携帯に転送するようにした。自宅でも渋谷の雑踏でも、佐藤は応える。「はい、福母八幡宮です」(敬称略、文・西出勇志、写真・堀誠)

福母八幡宮
福母八幡宮

 

多様化進む事業

 インターネットで企画を提案し、不特定多数の人から必要な資金を調達するCFが拡大を続けている。
 CFには、災害や紛争地の支援で用いられる「寄付型」、資金提供者が何らかの見返りを受け取る「購入型」などがある。慈善活動から、消費者の動向を見る大企業や若者の起業といったビジネスでの利用、地域を盛り上げるための事業まで、最近はさらに多様化が進む。
 神社での利用はまだまだ少ないが、寺院では地域の人が集うことができる寺カフェ(大阪市)、地震で壊れた参道の迂回(うかい)路整備(鳥取県)など、CFによるさまざまな活用例が出ている。

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