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企業から広げる両立支援 がん対策、参加3千社超  先進例に学ぶ機会を 

2019.10.15 0:00
 国が2009年にスタートさせた事業「がん対策推進企業アクション」の参加企業・団体が今年の夏、3千社を超えた。参加社は、がん検診を促して治療と就労を両立させるための資料や先進事例などの情報の提供が無料で受けられる。ただ、参加企業・団体には地域、業態による差が大きく、関係者は、さらなる参加を呼び掛けている。
 ▽増える患者
 企業アクション事務局によると、企業で働く人ががんにかかることはこれからも増えると推測されている。理由の一つは女性の社会進出だ。がんの新規発生を男女別にみると、50代前半までは女性が多い。この年代で働く女性が増えれば働く患者も増える。もう一つは勤労期間の延長。高齢者になるほどがんにかかる人は多い。
 事業の目的は、がん検診の啓発、がん教育、働き続けられる環境づくりの三つの柱からなる。
 事業のアドバイザリーボード議長である中川恵一(なかがわ・けいいち)東京大准教授(放射線科)によると、当初は名のある大企業を訪問して参加を求めても反応は弱かったという。「労働災害と違って、病気は自己責任という考え方がまだまだ主流だった」ためだ。
 だが、人手不足の労働環境や定年の延長による高齢勤労者の増加、健保組合への負担増、働き方改革が叫ばれたことなどにより徐々に理解が広がり、参加も増えた。一方、参加企業・団体の多くは大企業と健康保険組合だ。中小企業の取り組みをどのように推進できるかが課題になっている。
企業アクションの参加企業・団体に配布される小冊子
企業アクションの参加企業・団体に配布される小冊子

 


 ▽中小だからこそ
 神奈川県藤沢市の藤沢タクシーは、従業員80人余り。社長の根岸茂登美(ねぎし・もとみ)さんは保健師資格を持つ。01年、40歳で父から会社を引き継いだ直後、従業員の健康状態を知って「メタボの人ばかりで、この先どうなるのかと思った」という。そのうちに従業員ががんを発症。「これは産業保健の問題だ。私がやらないと、と覚悟を決めた」と話す。
 解雇は考えなかった。手術や抗がん剤治療の間は休めばいい。「がんになっても、24時間患者でいるわけではない。働くことは生きること、生活の基盤ですから」。勤務時間に融通を利かせ、タクシーの稼働率を下げてでも対応。今では、がん治療中の人を積極的に採用するまでになった。
 同社の運転手でがん治療中の60代男性は「告知後は落ち込んで辞める気になったが、社長から繰り返し『辞めないで』と言われた。おかげで、今は治療をしながらフルタイムで働けている」と笑顔で話した。
 両立支援の講演もこなす根岸さんは「中小企業だからこそ経営者が一人一人の体調に目を配れる」と伝えてきた。「がんに限らず、健康診断で異常があればきちんと通院しているかどうか確かめるまでが経営者の役目。体を大事にする社風をつくることから始めてほしい」と語った。
 ▽教育の場に
中川恵一東京大准教授
中川恵一東京大准教授

 


 企業アクションの参加企業・団体には、がんの予防と検診の大切さを分かりやすく解説する小冊子が、社員数だけ無償提供される。ニュースレターも配信され、ウェブサイトでは先進事例なども紹介され、具体的対策が学べる。
 中川さんは、子どもへのがん教育が制度化された現在、企業が大人へのがん教育の場になることを期待する。「治療の選択肢が広がり、がんについて知っておくことがその後の運命を決めることにもなる」からだ。
 中川さんはまた、がん対策が企業の価値を高めることを強調する。「がんは誰もがなり得る病気。若い人も明日はわが身として、患者がどう処遇されるか、じっと見ている。社員の健康を大事にする、経営者の姿勢が問われている」と話した。(共同=由藤庸二郎)

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