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近代フットボールの先駆けが殿堂入り TEゴンザレス、Sリード両氏

2019.8.6 13:01 生沢 浩 いけざわ・ひろし
大型のレシービングTEとして活躍したトニー・ゴンザレス氏(AP=共同)
大型のレシービングTEとして活躍したトニー・ゴンザレス氏(AP=共同)

 

 NFLにとって8月はプレシーズンゲームの行われる時期であり、開幕に向けて各チームが実戦を通して準備を急ぐ重要な1カ月だ。

 そして、第1週の週末は殿堂入り式典が華やかに執り行われるのが恒例だ。

 

 今年殿堂入りを果たしたのは、レーベンズで活躍したSエド・リード、ペイトリオッツ黄金時代の初期を支えたCBタイ・ロー、ブロンコスやレッドスキンズでカバーCBとして知られたチャンプ・ベイリー、歴代2位のパスキャッチ数(1325回)を誇るTEトニー・ゴンザレス、タイタンズで名Cとして活躍したケビン・マワイ、ブロンコスの前オーナーで6月に死去したパット・ボウレン、カウボーイズのスカウトとして名選手を多く発掘したギル・ブラント、そして1960年代のチーフスディフェンスを代表するSジョニー・ロビンソンの各氏だ。

万能型のSとしてDBの新しいプレースタイルを確立したSエド・リード氏(AP=共同)
万能型のSとしてDBの新しいプレースタイルを確立したエド・リード氏(AP=共同)

 

 殿堂入りは2月のスーパーボウルの前日に発表となっていたが、8月3日にオハイオ州カントンにある「プロフットボール殿堂」で本人を模したブロンズ像が披露され、象徴であるイエロージャケットが贈呈された。

 

 カントンは1920年にNFLの前身である「アメリカンプロフットボールアソシエーション」が誕生した街で、言わばNFL発祥の地だ。今年がプロリーグ誕生100年目にあたる。

 今年の殿堂入りメンバーの中にゴンザレス氏とリード氏が同時に名前を連ねているのが興味深い。

 なぜなら、この二人はそれぞれのポジションの印象を大きく変える先駆けとなったからだ。

 

 ゴンザレス氏は1997年にチーフスに入団した。196センチの身長を武器とするTEにすぎなかったゴンザレス氏のプレースタイルが大きく変わったのは、2001年にディック・バーミール氏がチーフスのヘッドコーチ(HC)に就任した時からだ。

 バーミール氏はロングパスを多用する「ビッグプレーオフェンス」を駆使し、1999年にはラムズでスーパーボウル制覇を成し遂げた。

 それまでのチーフスはランとパスのバランスがとれたオフェンスを採用していたが、バーミール氏の就任でその方針が一変する。そこで懸念されたのがゴンザレス氏の存在価値である。

「シャットダウンCB」として相手レシーバーに恐れられたチャンプ・ベイリー氏(AP=共同)
「シャットダウンCB」として相手レシーバーに恐れられたチャンプ・ベイリー氏(AP=共同)

 

 アンダーニースゾーンやエンドゾーンでのパスキャッチが多い典型的なTEのパスコースで主に起用されていたゴンザレス氏は、バーミール氏のオフェンスでは不要だとの声もあったのだ。少なくともバーミール氏とゴンザレス氏はミスマッチだと思われた。

 しかし、バーミール氏は見事にゴンザレス氏の新たな能力を引き出すことに成功する。それは、ゴンザレス氏にWRと同じポジションにつかせ、同じパスコースを走らせるということだった。

 今でこそ当たり前に行われていることだが、当時はTEがフランカー(FL)の位置にセットするだけで「事件」だったのだ。

 

 もともとパスキャッチ能力が高かったゴンザレス氏は、バーミール氏のスキームで一気に開花した。

 それだけではない。WRとTEの走るパスコースに差異がなくなったことでプレーの組み合わせが格段に増え、より積極的にディフェンスを攻めることが可能になったのだ。

 

 WRとTEのラインアップの位置を入れ替えることで、ディフェンスとのミスマッチも容易に作り出すことができた。

 後にダラス・クラーク(コルツ)やロブ・グロンカウスキー(ペイトリオッツ)の両選手が当たり前に行う「ハイブリット型」のプレースタイルを最初に確立したのがゴンザレス氏だった。

 

 WRのようなパスコースを走る体格のいいTEに対抗するにはCBだけでは足りなかった。

 そこでサイズがあり、スピードもあってパスカバーのうまいSが必要とされてきた。それを実現させたのがリード氏だった。

ペイトリオッツなどで活躍したCBタイ・ロー氏。左はペイトリオッツのビル・ベリチックHC(AP=共同)
ペイトリオッツなどで活躍したCBタイ・ロー氏。左はペイトリオッツのビル・ベリチックHC(AP=共同)

 

 リード氏の持ち味はフィジカルなプレーだ。Sとしてフィールドの最後尾で守備をしながら、抜けてきたレシーバーにはLB並みのヒットを食らわせる。

 SSのパワーとFSの守備範囲の広さを併せ持つリード氏もまた、DBのイメージを大きく変えた存在だった。

 

 現在のNFLはSSとFSの区別がほとんどなくなり、CBではなくSを増やす「ニッケル・ダイム」パッケージも一般的になってきた。

 こうした概念が生まれたのはリード氏のようなSが現れたからにほかならず、それはハイブリッドなTEに対抗するための手段だったのだ。

 

 NFL選手は引退してから5年を経て殿堂入りの審査を受ける資格を得る。

 ゴンザレス氏もリード氏も資格取得1年目での殿堂入りだ。二人の実績、現在のNFLに与えた影響の大きさを考えると当然の結果だろう。

 

 さて、殿堂入り式典はプロフットボールのシーズンの訪れを告げる風物詩でもある。9月5日のレギュラーシーズン開幕まであと一月足らずだ。

タイタンズの名Cとして活躍したケビン・マワイ氏とトレーシー夫人(AP=共同)
タイタンズの名Cとして活躍したケビン・マワイ氏とトレーシー夫人(AP=共同)

 

生沢 浩 いけざわ・ひろし

名前 :生沢 浩 いけざわ・ひろし

プロフィール:1965年生まれ。上智大卒。1991年にジャパンタイムズ入社。大学時代のアメリカンフットボール経験を生かし、フットボールライターとしても活動。NHKーBSや日テレG+でNFL解説者を務める。「Pro Football Writersof America」会員。

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