意外性が魅力生む 1年余りで20万人を集客 「むろと廃校水族館」(第9回優秀賞、高知県室戸市)

高知市から自動車で約2時間。高知県室戸市に新たな人気スポットが誕生した。文字通り廃校を改修した「むろと廃校水族館」。交通の便は決して良くないが、ゆったりと泳ぐウミガメが迎え、2018年4月のオープン以来、来場客は19年5月までに20万人を超えた。工夫を重ねた経営に、周辺施設の入場者が増える効果も生まれているといい、滑り出しは順調だ。

▽徹底したコスト管理も実施
水族館を運営する「日本ウミガメ協議会」(大阪府)は、01年ごろから室戸市周辺で調査を続け、ウミガメの観察ができる貴重な地域だと評価していた。自身も調査に携わってきた若月元樹館長は「すばらしい場所。長く調査を続けたいと考えていた」と話す。
室戸市が廃校となった小学校の活用策を募ると、同協議会は水族館への改装を提案した。地域活性化に取り組むと同時に、ウミガメなどの調査を続ける拠点としても利用する計画だった。若月館長は、廃校にプールが二つもあり「ウミガメを泳がせることができる」と考えた一方で「住む人たちが明るい。ここなら大丈夫と直感した」と話す。
ただ、交通の便に恵まれていないこともあり、経営が軌道に乗るかどうかは疑問だとする声も強かった。老人向けの福祉施設に改装した方が地域にとって有益ではとして、水族館のオープンに反対する意見も寄せられていたという。しかし、同協議会は沖縄県の離島でウミガメの研究所を立ち上げ、多くの人が訪れる施設を運営してきた実績があった。廃校が水族館に変わる驚きを発信すれば、関心を集めるはずだと訴え理解を求めた。

徹底した経費削減も進めた。沖縄など各地の魚を集めてはという声もあったが「地元の魚でやってみたい」と主張。研究を通じて漁業者らと培った信頼関係を生かして集めており、展示している約50種類の魚は全て室戸市周辺で揚がったものだ。各地から魚を集める場合と比べ経費を抑えられ、水槽で使う水も目の前の海から引き込んだ。
「節約」のアイデアは、あちこちに見られる。理科室や図書室など学校当時の施設は、研修室や関連図書の展示に活用。使われていた机や黒板などもそのまま利用しており、来場者には懐かしいと評判だ。水槽の前にタオルを置き、曇っていたら来場者に拭いてもらう「飼育員らくらくシステム」まで設けている。
▽規模ではなく工夫で勝負

屋外のプールで泳ぐサバの群れは日の光を浴びて青く輝く。屋内展示では見られない光景で「漁師が見る光景そのもの」と、若月館長はいう。季節に応じた魚を展示するなど、規模では勝負せず工夫を重ね魅力を生む取り組みを「目玉のないのが目玉だ」と話す。

カレーやドロップなど地元業者と協力し、オリジナルグッズも送り出す。研修生が地元の漁師になるなど、地域とのつながりは深まってきた。次の課題は2年目以降の来場客の確保。若月館長らはウミガメを利用した新たな取り組みを検討したりと、次の一手の模索を続けている。(共同通信 伊藤祐三)