速やかに通告、見守る 視標「千葉小4虐待死事件」
千葉県野田市の小学4年女児虐待死事件を聞いて、最初に思い起こしたのは、2009年に大阪市西淀川区で松本聖香(まつもと・せいか)さんが亡くなった事件だ。
小学3年だった聖香さんが顔にあざをつけて登校し、同居していた男性から暴力を受けたと先生に話したが、学校は「(児童相談所などに)通告をせずに単独で母に事実を確認する」という危険な行為に出た。母は事実を否定し、暴力が再発した時に登校させず、うその欠席理由を学校に伝えた。
10年には、東京都江戸川区でも小学1年の虐待死事件が発生。文部科学省は虐待通告義務の再確認を通知し、厚生労働省と連名で、虐待見守りの機関である要保護児童対策地域協議会に登録されている子どもについて、市町村と学校・保育園との定期的な情報確認を義務づける通知も出している。
野田市の事件では、学校が比較的早期に児童相談所に伝え、一時保護を行っている点は評価できる。しかし、児童虐待で保護者と永久に分離される例はまれだ。この分離される割合が低いのも日本の特徴だが、結局どこかの段階で自宅に戻り、学校にも戻ってくる。その際の見守り体制の質も問われる必要がある。
また虐待に関わる保護者は公的機関の関与を察知すると、本当のことは言わず、子どもにも口止めして、連携は困難となり対立の構図となりやすい。安易な保護者への事実確認や指導は、その後の支援に困難をきたすということを踏まえて、専門機関を含む多くの機関の連携体制の下で支援を行うことが大切である。
学校や保育園は子どもが通うことで安否確認もできるし、保護者と離れる時間が生まれ、児童虐待のリスクも下がる。安心して子どもが通える学校や園をつくることが何より重要だ。
ところが、現在の学校では、保護者をめぐるジレンマを感じる状況が強まっている。保護者の意向が絶対とされる一方で、今回のように子どもの安全を脅かす保護者への対応も求められる。
家庭訪問も不登校の子どもを追い詰めることになるため、適切な判断の下で実施するように求められ、特に保護者が拒否する家庭訪問は不適切とされ、保護者とのトラブルも珍しくない。
このような状況で、家庭への指導が業務ではない学校は混乱し、子どもが守られていないと感じることも少なくない。
さらに問題なのは、虐待を通告した人の情報は漏らさないと法律に定められているのに、守られていないことだ。
兵庫県三木市で07年、虐待で一時保護された子どもの父親が市議を通じて学校に事情を照会したところ、校長が虐待を通告した養護教諭の名前を伝え、父親から再三面会を要求された養護教諭が自死する不幸な事件も生じている。
学校は虐待を疑ったら速やかに通告するとともに、その後の見守りも分担することを確認し、この見守りが安心して行えるよう、福祉機関と要保護児童対策地域協議会の体制と力量の向上を求めたい。
(2019年2月15日配信)