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第9部「さまよう財政」(5) 「将来世代」と対話重ねる  異なる利害、克服探る町 

2019.4.22 16:04 井手壮平
 あなたが2060年を生きる住民なら町づくりをどう考えますか―。こんな視点を反映させた岩手県矢巾町の実験的な住民討論が注目されている。社会保障のように、負担をなるべく抑えて現在の給付や恩恵を守りたい今の大人世代と、持続性を求める若者、今後生まれる世代とで利害が異なる政策は数多い。その対立克服を探る試みだ。
 
 討論は15年に本格スタート。住民基本台帳で無作為に抽出するなどして18~79歳の町民から約30人を集め、さまざまな課題を議論してもらっている。例えば当日に「現世代」「仮想将来世代」にグループを分けて片方は自然体で語り、もう一方は「今の年齢や立場のまま60年に生きていたら」と想定。将来世代はそろいの法被を身にまとい、見た目の違いも際立たせて話し合いは進む。
 
「仮想将来世代」を示す法被を着て町の課題を議論する岩手県矢巾町の住民
「仮想将来世代」を示す法被を着て町の課題を議論する岩手県矢巾町の住民

 参加したパート従業員の宍戸美帆(43)は「最初は戸惑ったが促されて話すうち、だんだんスイッチが入った」と笑う。町づくりでは、ショッピングセンターの誘致で便利になれば良いと考えていた宍戸。だが一度失った自然を取り戻すのは難しい。頭を切り替えると、自然保護を優先してほしいとの思いが湧いた。「技術の発達で、将来は今の不便さが解消されているだろうから」

 時を超えた議論の積み重ねの成果は負担を巡る問題で表れている。町では16年、住民自ら上下水道料金の6%引き上げを提案し、全国的に珍しい事例となった。
 
 総合計画作りに生かす19年春からの討論では、国民健康保険などの社会保障も取り上げる可能性がある。町企画財政課の課長補佐、吉岡律司(48)は「普通は今の延長上でしか物事を考えられないが、長期的な視点が必要な問題には適さない」と、将来を起点とした狙いを話す。
 
 将来世代との対話を仮想する手法は「フューチャー・デザイン」と名付けられ、長野県松本市や大阪府吹田市でも試行が広がる。医療・介護や公共事業、エネルギーなどは息の長い政策だが、現在暮らす人の目線で決まりがち。投票年齢に満たない人やまだ生まれてもいない世代の声を代弁する仕組みの不備が、民主主義の欠陥の一つに数えられてきている。
 
 大半の自治体よりはるかに深刻な国の借金に関し、慶応大教授の小林慶一郎(52)は「将来の国民負担は重すぎる状態になりつつある。政府レベルで将来世代の利益を代表する担当をつくれば政策が変わってくる可能性がある」と期待した。財政の論議では「声なき声」に耳を澄ます姿勢が問われている。(敬称略、年齢・肩書は取材当時)
 

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