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第9部「さまよう財政」(3) 老後への自助、国が推奨  年金先細りで投資も優遇 

2019.4.22 16:02 早田栄介
 「退職後の生活に必要なお金がどれぐらいか分かりますか。現役時代の年収の7割程度です」。熊本市内で地元の九州FG証券が2019年2月に開いた「人生100年時代」に備える資産セミナー。講師のフィデリティ退職・投資教育研究所(東京)所長の野尻哲史(59)が説明すると、参加者は熱心にメモを取った。
 
フィデリティ退職・投資教育研究所(東京)が開催した資産セミナー
フィデリティ退職・投資教育研究所(東京)が開いた資産セミナー

 男女とも平均寿命が80歳を超える時代、仕事を辞めた後の期間は長い。将来への貯蓄は不要になるが、現役時代の暮らしを保とうとすると出費はあまり変わらない。半面、サラリーマンの入る厚生年金でも必要額の6割ほどしか賄えない―。

 厳しい見取り図を示した野尻が「今の低金利では預貯金で用意する方が大変だ」と資金運用の知識を得る必要性を訴えると、40代の男性会社員は「老後の資金には不安がある。投資に取り組むかどうかで生活が変わると思った」と受け止めた。
 
 こうしたセミナーが人を呼ぶ背景には、厚生年金や国民年金といった公的年金の先細りがある。
 
 厚生労働省の16年調査では、65歳以上世帯の平均所得のうち65%が「公的年金・恩給」だ。収入が年金と恩給だけの世帯が過半数に上るなど依存度は高い。厚生年金では現役世代の平均手取り収入の半分以上を確保するとして、政府も「安心」を説いてきた。
 
 だが、これを「机上の空論」と言い切るのは社会保障に詳しい昭和女子大特命教授の八代尚宏(73)。低金利や少子高齢化が年金財政を圧迫、国庫負担もかさんで「いずれ支給開始年齢を70歳まで引き上げることは避けて通れない」と見通す。
 
 支給年齢が維持されても、物価の伸びや高齢化などに対し給付額を抑える調整制度がある。「公的年金で老後の生活が済むという考えは改めないといけない」。こんな声も出た政府税制調査会(首相の諮問機関)などを舞台に、国は「自助努力」の推奨に傾いている。
 
 公的年金を補う企業独自の年金制度を廃止する動きも増え、重みを増すのが新手の金融制度だ。個人で入れる確定拠出年金「iDeCo」、小口の証券投資での税を優遇する少額投資非課税制度(NISA)…。制度拡充や使い勝手を高める検討が進み、金融業界は商機と捉える。
 
 ただ、各種の口座数は伸びているものの「今は既存顧客が使っているだけ」(大手証券関係者)。運用への抵抗感が強く、認知度も低いためだ。器を整えても「金融に明るく利用する人と、そうでない人とで格差拡大をもたらしかねない」と野尻。社会保障という「共助」の弱まる先には不安が浮かぶ。(敬称略、年齢・肩書は当時)

 

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