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第9部「さまよう財政」(2) 健康促進は切り札か  医療費抑制の「甘い夢」 

2019.4.22 16:01 金友久美子
 元気に暮らすのに重要な「歩行年齢」を姿勢などから測る機器や、ミネラル豊富な歯磨き粉…。東京都内で2019年2月に開かれた健康長寿産業展は、近年の健康ブームを一段と刺激しそうな商戦に沸いていた。「高齢化が進む日本は有望市場」と話すのは米国系食品大手の担当者だ。独自開発した大豆粉や甘味料を手に「世界に先駆けた新商品ですよ」と力を込めた。
 
東京都内で開かれた健康長寿産業展
東京都内で開かれた健康長寿産業展

 長寿社会で花開くヘルスケア産業を利用するのは、介護施設や高齢者らにとどまらない。生産性向上を急ぐ企業は、従業員らの健康診断データを解析するシステムを導入し始めている。

 オフィス機器大手の内田洋行(東京)の健康保険組合は13年に採用。血糖値などから特定の指導が要る人を自動抽出でき、加入者7千人のうち109人の「ハイリスク者」の生活習慣の改善を重点支援して効果を上げた。保健師らの余力を生かし、慢性的な腰痛や若手社員の食事の改善にも手を広げている。
 
 「生き生きと働ける状態をつくることが企業がもうかる土台になる」と事務長の中家良夫(64)。医療費負担の高止まりに悩む企業健保では、収支改善に向けた先行投資の意味合いも帯びる。
 
独自開発した甘味料を勧める米国系食品大手の担当者
      独自開発した甘味料を勧める米国系食品大手の担当者

 経費圧縮の思惑を込め、健康促進の追求は国レベルでも進む。合言葉は「治療から、予防や健康管理へのシフト」。腹囲を調べる特定健診(メタボ健診)の実施率向上や糖尿病患者数の抑制といった目標達成に加え、先進技術を生かす予防医療の議論が政策の前面に出てきた。

 半面、健康づくりが財政再建の「切り札」になるとの説には異論が強い。首相、安倍晋三(64)が18年「予防、健康にインセンティブ(動機づけ)を置くことで医療費が削減されていく方向もある」と、今後の社会保障改革に絡めて発言したことで論争に火が付いた。
 
 専門家の間では効果の一方、施策に伴う支出がかさむとの指摘が相次ぎ、日本福祉大名誉教授の二木立(71)は「世界的に、むしろ医療費は増えたとの研究結果が定着している。そもそも予防医療は生活の質を上げるためのもので、費用抑制手段と考えるべきではない」と断じる。   
 
 08年度に始まったメタボ健診は年2兆円の医療費削減効果がうたわれたが、検証した対象者の実績は1人年約6千円にすぎず、投じた予算を下回った。時の政権が再び「甘い夢」に浸る光景に、政府内では「超長寿社会に備えた財源確保という『苦い現実』からの逃避だ」と冷ややかな声も出ている。(敬称略、年齢・肩書は当時)

 

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