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第9部「さまよう財政」(1) 不人気政策、先送り続く  迫る団塊75歳、対応宙に 

2019.4.22 16:00 田井誠
 「この制度は大きな問題がある」「国民の納得は得られない」。2016年10月、厚生労働省の審議会。以前から財務省が医療で提起していた「ワンコイン負担」と呼ばれる制度案に、有識者が次々と異論を唱えた。
 
 この案は風邪や打ち身などの軽症で、かかりつけ医ではなく大病院で受診する患者を中心に、通常の窓口負担に100円以上の一定額を上乗せする仕組み。大病院に患者が集まる非効率を抑えるよう誘導して分担を推進し、公費支出の節約にもつなげる目算があった。
 
財政再建を議論する財政制度等審議会の分科会
財政再建を議論する財政制度等審議会の分科会

 だが学者は治療が手遅れになる恐れを指摘。日本医師会副会長の松原謙二(62)が、患者負担を求める厳しさを挙げて「非常に筋が悪い」と再考を迫り、議論はしぼんだ。政府は当時、この案は18年度末までに検討して必要な措置を取るとしたが、その時期が来た今も具体化していない。

 社会保障は厚労省の所管だが、財政悪化の主因と見定めて予算編成に当たる財務省主計局が深く関わる。現局長の太田充(59)も務めた主計官にエースの人材を置き、この数年は給付削減案を矢継ぎ早に提起。75歳以上の後期高齢者の医療費負担割合を今の1割から2割に高めることや、公的年金支給開始年齢の引き上げなども示してきた。
 
 高齢者の負担増や受診機会の低下など、反発を招く案件に政権中枢は深入りせず、多くは宙に浮く。今年の消費税増税でも首相、安倍晋三(64)は「税を全て国民に返すレベルの(景気)対策を講じる」と話し、歳出拡大にためらいがない。
 
 「首相官邸は細かい指示を出す割に財政再建だけは反応が鈍い。国民に不人気な政策を嫌がる」と嘆く財務省幹部。危機を訴えた財政も足元に異変はなく、文書改ざんなど不祥事の続いた省内では「おおかみ少年のようだ」(中堅)と、孤立への自嘲も漏れる。
 
 だが団塊世代が75歳になり始める22年以降は医療、介護費が大きく伸び、借金で後世につけを回す構図が加速しかねない。財務省の財政制度等審議会は昨秋の意見書で「悲劇の主人公は将来世代だ」と先送りを戒めた。
 
 こうした批判も意識する政権は参院選後の今夏にも負担と給付の見直し論議を始めるとし、官僚がプランを練る。ただ財政審メンバーで、障害者の力を生かした経済活性化を訴える竹中ナミ(70)は、財政問題が一部専門家や霞が関での内向きの議論に終始し「危機意識が国民に十分伝わっていない」と危ぶむ。
 
 安倍の本気度もはっきりせず、改革の司令塔や世論の追い風は見えてこない。(敬称略、年齢・肩書は取材当時)
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 高齢化で財政はきしむ半面、痛みを伴う見直しは容易でない。政権や省庁、関係者の動きから問題打開の道を探った。

 

グラフ
 

 社会保障と財政 国の財政の基本的なやりくりを表す一般会計の総額は2019年度予算案で101兆4571億円と、1989(平成元)年度当初予算の1・7倍に増えた。年金や医療、介護などの社会保障費が34兆円超に膨らんだのが要因。高齢化に加え、先進的な医薬品・技術の登場も費用を押し上げている。消費税率を上げても新規国債発行(追加の借金)は続き、国と自治体の借金残高は19年度末に1122兆円へ拡大。健全性を測る指標「基礎的財政収支」の赤字をなくす時期は先送りを重ねて25年度となったが、目標達成は厳しい状況だ。国費以外に、保険料や自治体の負担で賄う分を合わせた社会保障給付費は18年度の予算ベースで121兆円。団塊世代が全員75歳以上になる25年度には140兆円を超えると政府は試算した。

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