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第7部「認知症、次の一歩」(4) ぬくもりのケア、穏やかに 「百八十度反応変わった」 

2019.3.22 16:03 市川亨、千葉響子
 認知症の根本治療薬が見いだせない中、現在広く使われている薬を公的医療保険の対象から外したフランス。「薬よりも本人に適したケアをすることの方が有効」。背景には、そんな考え方がある。その国で生まれた介護技法が、日本で広がりつつある。
 
 「右手に触れるよぉ」「温かいタオルで拭くよぉ」。入院患者の8割近くを高齢者が占める東京都調布市の調布東山病院。発熱で入院してきた90代の女性患者に、看護師の安藤夏子(37)が優しくゆっくり話し掛ける。
 
 女性は重い認知症で寝たきり。話を理解できているかどうかは分からないが、安藤の声に反応して時折、言葉を発する。「気持ちいい…」「あいがと(ありがとう)」。この日は入院後初めて上体を起こして座る姿勢が取れた。
 
 安藤が実践しているケアの技法は「ユマニチュード」と呼ばれる。「人間らしさ」を意味し、フランスの体育学の専門家らが考案した。「見つめる」「話しかける」「触れる」「立ってもらう」の四つを基本に「顔を近づけ目線を合わせる」「穏やかに話し掛ける」といった方法で介護する。
 
ユマニチュードによるケア
ユマニチュードによるケアを実践する看護師の安藤夏子

 5~6年前から日本でも取り入れられ、安藤も研修を受けた。「患者の反応は百八十度変わった」と安藤。以前は「おまえはうそをついている」と暴言を受けたり、暴力を振るわれたりすることがあり、安藤も口調や態度がつい厳しくなった。それがまた相手を怒らせる悪循環。

 
 「私たちは着替えやおむつ交換など必要なことを短時間で済ませようとするが、時間をかけることで患者は落ち着き、トータルで見れば、かえって手間は減る」と話す。
 
 この介護技法を人工知能(AI)を使って普及させようとしているのが、日本でのユマニチュード研修運営主体でもあるベンチャー企業「エクサウィザーズ」(東京)。
 
 介護者がケアする様子を動画に撮り、指導者がインターネットで動画を見ながら、画面への書き込みや音声で助言できるシステムを開発した。さらに、熟練者の動画をAIが解析し、科学的な裏付けに基づいてAIがコーチする技術の実現を目指す。
 
 「ユマニチュードは一見単純なようだが、奥が深い。習得も伝授も実は難しい」と同社取締役の坂根裕(44)。「専門職だけでなく、日常的に介護する家族にも広げたいが、時間や人手が要る。AIの活用でその壁をなくし、多くの人に届けたい」
 
 人のぬくもりが伝わるケアを、先端技術が支える。そんな未来も遠くはない。(敬称略、年齢・肩書は取材当時)

 

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