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第7部「認知症、次の一歩」(3) 頭と体、同時に動かす  薬に頼らぬ予防模索 

2019.3.22 16:02 池内孝夫
 「次はラダー(はしご)やります。3と8歩目で足を外に出し、11歩目で手をたたいてください」。愛知県大府市の大府公民館。リーダーが声を掛けると、20人のお年寄りが、床に敷かれたはしご状の運動器具の上を一歩一歩またぎながら前に進む運動を始めた。
 
 市内にある国立長寿医療研究センターが考案した、頭を使いながらゲーム形式で体を動かす認知症予防トレーニング「コグニサイズ」の一場面だ。ミスせずにこなすのは容易ではなく、部屋には「あ、間違えた」「ごまかしちゃいかんよ」などと笑いが絶えない。
 
はしご状の運動器具をまたぐ認知症予防トレーニング(愛知県大府市の大府公民館)
はしご状の運動器具をまたぐ認知症予防トレーニング(愛知県大府市の大府公民館)

 毎週、ダンスや筋トレ、コグニサイズを組み合わせたプログラムを1時間半ほど行う。最高齢の田村八重子(87)は「結構疲れるけど、友達とわいわいやれるから毎週来ているの。物忘れはひどくなっているけど、医者は『そのくらいだったら認知症には入りません。大丈夫』と言ってくれる」と話す。

 コグニサイズのメニューは、ステップしながら3の倍数で手をたたいたり、しりとりをしたりとさまざま。現在、介護予防事業などとして全国の施設で行われている。
 
 考案者は同センター予防老年学研究部長の島田裕之(48)。認知症の前段階とされる「軽度認知障害(MCI)」の人が10カ月間、週に1回、90分のコグニサイズを行った場合、しなかった人に比べて記憶力の向上や言語機能の改善、脳の萎縮を止めるなどの効果があることが分かった。
 
 「運動が高齢者の認知機能の低下を防ぐことは以前から分かっていた。頭を同時に使えば、より脳が活性化し、効果が上がる可能性がある」と説明する。
 
 認知症の治療薬開発が難航する中、コグニサイズのように薬に頼らず脳の機能を維持する手段に期待がかかっている。英医学誌ランセットは2017年、認知症の35%は生活習慣の改善などで予防できる可能性があるとした論文を掲載。運動のほか、若い時の教育、社会への関与、禁煙、難聴対策、血圧の管理などが重要だという。
 
 日本では65歳以上の5人に1人がMCIとされるが、早期なら回復が望めることも分かってきた。
 
 島田は「自分の認知機能が落ち始めた段階で、できるだけ早く予防の取り組みを始めることが大事だ。これからはリスクを把握するため、誰でも手軽に検査を受けられる体制をつくることが重要になる」と訴えている。(敬称略、年齢・肩書は取材当時)

 

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