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第7部「認知症、次の一歩」(2) 「血管の健康」注目を  原因物質の排出促せ 

2019.3.22 16:01 井口雄一郎

 アルツハイマー病は、発症の20年近く前から脳の中に老廃物がたまり、神経が傷ついていくと考えられている。現在の治療薬開発は、たまった老廃物をどう分解するかに力点を置く。だが老廃物を脳から排出する「下水道」、つまり血管の健康にも注目すべきではないか。そんな考え方が徐々に広がり、生活習慣病対策や血流を良くする薬の試験が急がれている。

 問題の老廃物は有害なタンパク質「アミロイドベータ」。1990年代前半には、このタンパク質が神経細胞の周囲にたまるだけでなく、血管にもこびりつくことが知られていた。だが「神経の病気」との印象が強く、血管に関心が向けられることは多くなかった。

 国立循環器病研究センター脳神経内科部長の猪原匡史(48)は血管の健康悪化が認知症に結びつく仕組みをこう説明する。

 アミロイドベータが血管にくっつくと、血管は硬くなり、盛んに収縮して血液を送ることができなくなってしまう。その結果、神経が活動しようとしても必要な酸素や栄養が届かなくなり、認知障害を招くとみられる。

国立循環器病研究センター脳神経内科部長の猪原匡史
国立循環器病研究センター脳神経内科部長の猪原匡史

 さらに、高血圧や糖尿病といった生活習慣病でも血管の傷みは進行。血流が悪くなるとアミロイドベータを増やす指令まで出てしまい、血管への沈着が加速する悪循環に陥るという。

 悪循環を断つ方法の一つは生活習慣病対策と考えられている。フィンランドのチームが認知症リスクのある高齢者1260人を対象にした研究では、健康な食生活や運動、血液検査を通じた血管の健康管理などを2年間行うと、一般的な健康アドバイスを受けただけの人たちに比べて認知機能の低下を抑えられた。

 薬の臨床試験も進行中だ。猪原は2015年、脳梗塞の再発予防に使われている「シロスタゾール」という薬を、物忘れが始まった「軽度認知障害」の人たちに使ってもらい、日常生活に支障が出る認知症へと進むのを防げるか調べ始めた。

 血管を詰まらせる血栓をできにくくするのが主な働きだが、血管の動きを促す副作用もある。この副作用を利用し、硬くなりかけた血管の血流回復を狙う。200人が参加する計画で、1~2年後には結果が出る。効く可能性が示せれば、より多くの人を対象にした次の試験への扉が開く。

 ただ猪原は「血管の薬ですべてが解決するとは思わない」と指摘。「試験が成功しても、他の生活習慣病と同じように、治療には作用の異なる薬を複数組み合わせる必要があるだろう」と話す。(敬称略、年齢・肩書は取材当時)

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