メニュー 閉じる

第6部「孤独大国」(3) 「悲劇防げ」住民の模索  理容店は中高年の社交場 

2019.2.20 19:02 米良治子、市川亨
 2018年10月上旬、岩手県奥州市の山あいにある集会所に60~80代の男女約10人が集まった。健康体操に汗を流し、持ち寄った菓子や果物を食べながら談笑する。3年前から続く週1回の「ろばだの会」。最年長の佐藤妙(87)は「みんながどんな話題を持ってくるのかいつも楽しみ」と笑う。

「ろばだの会」で談笑する地域住民
「ろばだの会」で談笑する地域住民

 会ができたのは、ある“事件”がきっかけだった。雪が積もる15年1月、周囲の家から孤立した場所に住む足腰の弱い母親=当時(91)=と、独身の長男=当時(64)=が自宅で亡くなっているのを訪れたケアマネジャーが発見。介護していた長男が急性肝炎で亡くなり、助けを呼ぼうとした母親も廊下で凍死したとみられ、ともに死後数日がたっていた。

 お互いの顔が見える関係の集落で起きた母子の死亡は住民に衝撃を与えた。しかも、奥州市は孤独死防止策に取り組む先進地域として国に取り上げられたこともあった。市や社会福祉協議会の職員らは防止の難しさを改めて実感した。
 
 悲劇を繰り返すまいと区長の佐藤邦憲(71)らが中心となってつくった同会だが、顔ぶれがあまり変わらないのが悩みの種。そこで18年9月から、小中学生や若い夫婦と休耕地で小麦を育てる試みを始めた。収穫した小麦で地域の伝統料理を振る舞う計画だ。区長の佐藤は「多くの世代を巻き込んで地域活性化にもつなげたい」と意気込む。
 
常連客の河合恒彰(右)の髪を切る横濱晃治
         常連客の河合恒彰(右)の髪を切る横濱晃治

 地域や行政とは別に、個人で取り組む人もいる。横浜市内で理容店を営む横濱晃治(45)。髪を切りながら常連客の中高年男性たちと話していると、定年後の生活に不安を感じていたり、近所付き合いがなかったりする人が多いのに気付く。

 お役所が催す行事には足が向かない男性たちも、理容店には必ず定期的に来る。「中高年の男性の孤独が問題だと言われるけど、俺にできることがあるんじゃないか」
 
 そんな思いから、横濱は年に4回ほど店で客同士の交流会を開く。最初はぎこちない雰囲気だが、横濱が「この人とあの人は阪神ファン」などと共通の話題を振ると、会話が弾み始める。
 
 近所に住む常連客の河合恒彰(60)は、同居する高齢の母親を介護するため、会社を2年前に退職。母と2人きりの生活はストレスがたまることもあるが、交流会に参加するようになって「地元での付き合いに広がりができた」。
 
 横濱は言う。「理容店は地域の社交場の役割を果たせるはずだ」。一人一人のちょっとした働き掛けに、救われる人がきっといる。
 
(年齢・肩書は取材当時、敬称略)
 

最新記事

関連記事 一覧へ