メニュー 閉じる

第6部「孤独大国」(2) 身寄りなし、医療おろそか  独居でも互助あれば違い 

2019.2.20 19:01 市川亨
 冬の日の夕刻、札幌市の総合病院。看護師の大久保美樹(27)=仮名=が夜勤に入って間もなく、救急車で80代の男性が運び込まれた。重症の肺炎。酸素マスクを着け、生きているのがやっとの状態だ。認知症もあって、意思疎通が取れない。

 男性は1人暮らしで、終末期にどんな治療を望んでいたのかは分からない。大久保の同僚の担当看護師が家族関係を調べると、娘が1人いることが分かった。
 
夜間も救急搬送が相次ぐ札幌市内の総合病院
夜間も救急搬送が相次ぐ札幌市内の総合病院

 連絡を受けた娘は病院を訪れたが、息も絶え絶えにベッドに横たわる父親を遠目に見るだけ。長く絶縁状態だったと話し、「どうなってもいい」というのが答えだった。必要なだけのおむつを買うと、病院を後にした。

 「それなら、おみとりですね」。娘の反応を見た同僚の看護師は、積極的な治療はせずそのまま最期を迎えさせることを提案。医師も同意して結局、男性は翌日息を引き取った。2016年初めのことだ。
 
 大久保には複雑な思いが残った。抗生剤の投与など最低限の治療はすべきではなかったか。身体状態が回復すれば意思疎通できたかもしれない。
 
 「ただ、こういうことは珍しくない」と大久保。身寄りがなければ、親族から訴訟を起こされるリスクはほぼゼロだ。「近親者がいないと分かると、医療機関の対応はおろそかになりがち。複数の医療職で治療方針を決めるようにすべきではないか」と話す。
 
 同じ「認知症で独居」でも、対照的なケースがあった。妻に先立たれ、単身でマンションに住む80代男性。体調不良がきっかけで食事や水分が取れなくなり、脱水状態で救急搬送されてきた。
 
 男性を発見したのは、マンションの隣の部屋に住むやはり1人暮らしの女性。お互い独居のため様子を見合う間柄だった。男性の子どもたちは遠方に住んでいたが、この女性が連絡先を知っており、病院に駆け付けることができた。
 
 男性は意識障害を起こし、点滴の管を抜いて治療を拒んだ。それでも脱水症状が回復すると、徐々に会話ができるようになった。「家に帰りたい」。そう口にした。医師が子どもたちと相談し、療養型の病院にいったん転院してから自宅に戻ることに。隣室の女性も病院に見舞いに来た。
 
 大久保は実感を込めて振り返る。「独居の高齢者が自宅で生活し、必要な医療を受けるには、救急隊が到着したときに家族などの緊急連絡先が分かること、隣近所と助け合える関係を築いておくことが不可欠だ」
 
(年齢・肩書は取材当時、敬称略)

 

最新記事

関連記事 一覧へ