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同施設監禁のカナダ人と真相解明へ  特別寄稿「私たちを拘束したのは誰だ」

ジャーナリスト 安田純平
 私はシリアで武装勢力に拘束され、10月に3年4カ月ぶりに解放された。帰国後、同じ場所で監禁されていた人物と連絡を取り合い、体験を語り合って互いに励まし、事実関係の確認と考察を続けている。

同じ施設で監禁されていたカナダ人と連絡を取り合い、真相解明に向けて事実確認と考察を続ける安田純平さん=2018年12月11日、東京都目黒区
同じ施設で監禁されていたカナダ人と連絡を取り合い、真相解明に向けて事実確認と考察を続ける安田純平さん=2018年12月11日、東京都目黒区

 ▽壁やドア蹴る

 「誰かが殴りつけられ、泣き叫ぶ声…。夜、目を閉じると、あの音が頭の中によみがえってきて離れない」

 シリアで約1カ月拘束され、2月に解放されたカナダ人の人権活動家ショーン・ムーアさん(48)が12月中旬、フェイスブック(FB)のメッセージを立て続けに送ってきた。

 「俺もひどい拷問を受けたが叫んだりしなかった。それどころか『アイラブユー』って言ってやった。やつらに満足させてやりたくなかった。だから、他の囚人が泣き叫ぶのを聞いて、黙ってくれ、と思ったんだ。ただ黙ってくれ、静かにしてくれ、と耳をふさいだ。他の人を思いやることもできなかった」

 別れた夫に子ども2人をレバノンに連れ去られたカナダ人女性が1月、子どもを連れて陸路シリアを通ってトルコへ抜け、カナダに帰ろうとしたが、シリアで武装組織に拘束され、女性を助けるために同行していたムーアさんも拘束された。

 ムーアさんは女性と離され、何カ所か移動した後、私と同じ収容施設に監禁された。私が入れられていた幅1メートル余りの独房の右側、二つ隣の部屋だ。トイレから漏れる下水で湿った床に汚れた毛布にくるまって眠ったという。このころ、私の部屋も下水漏れで水浸しで、私は多少湿り気の少ない場所に丸まって寝るしかなかった。

 ムーアさんは、スパイ容疑と子どもを拉致した疑いをかけられ血がにじむほどの拷問を受け「懲役10年」とも言われたが、「罪は不法入国だけであり、人道的見地から自国へ帰す」といった内容の証明書を渡され、女性とともに解放された。2人はトルコとの国境で記者会見まで行っている。

 当時、私は他の囚人と話すことを許されていなかったが、他の囚人はとがめられていなかった。ムーアさんと看守や囚人とのやりとりを聞いていた私は帰国1週間後、FBで彼を見つけてメッセージでその内容を伝えると「それは俺だ! あの経験を分かち合える相手がいたなんて!」と喜んでくれ、連絡を取り合うようになった。

 12月半ば、ムーアさんから「俺の近くの部屋で、正気を失ったかのようにドアや壁をたたいている囚人がいた。彼は一言も話せなかった。あれはおまえか?」と聞かれ、監禁の長期化で自暴自棄になり壁やドアを蹴りつけることもあったことを告げると、「やはりそうか。すまなかった」と意外な言葉を述べた。

シンポジウムで発言する安田純平さん=2018年12月26日、東京都文京区
シンポジウムで発言する安田純平さん=2018年12月26日、東京都文京区

 ▽本当にヌスラか

 「先に解放されたのに助けてやれなかった。拘束者はメディアにアピールする気で解放したから、こちらから要求できる強みもあったんだ。俺は他の囚人たちの声も、おまえの嘆きも聞いていた。それなのに他の囚人も帰してやってくれと言わなかった。自分のことしか考えられなかったんだ。そのことでずっと悩んでいる。恥ずかしくて妻にも親友にも言えない」

 しかし殺されるか、永遠に帰れないかという状況で、ようやく解放されるという時、見も知らぬ他の囚人のことにまで気を回すのは難しい。周囲も理解してくれるはずだ。そう伝えると「あのひつぎのような独房でできたのは、正気を保つために自分の心を閉じて頭の働きを止めて何も考えないことだけだった。恐ろしいことだ」と振り返った。

 私は独房にいる間、自宅にいる夢を見て「ごく普通にドアから外に出れば自由じゃないか」と思ったところで目覚め、独房にいることに気づいて落ち込むことが何度もあった。帰国後は、自宅で眠っていても、目覚めると夢なのか現実なのか分からないことがある。

 「同じだ」というムーアさんは、「狭い独房で時々両側の壁に手を当てて、地獄にいるんだと再認識した。今は特に夜、自分がどこにいるのか分からなくて混乱することがある。妻はそれを知って怖がっている」と苦悩を語った。

 ムーアさんは拘束された際、密輸業者や自由シリア軍(FSA)などに引き渡されながら、いくつもの場所を移動させられたという。収容施設に入れられてから3週間余りで武装組織タハリール・シャム機構(HTS・旧ヌスラ戦線)の「救済政府」に「救出」される形で解放された。

 「収容施設はFSAやHTSなど複数の組織が関わって運営されているのでは」とみる。身代金支払いはカナダ政府もムーアさんも否定している。

 収容施設を運営している組織は私の拘束者でもある。報道ではヌスラ戦線とされているが、収容施設には自らを「ヌスラの構成員だ」と言う囚人が多数収監されていたほか、没収された機材の返却を私が求めると「ヌスラと一緒にシリアに入り直す気ではないか」と彼ら同士で話しているなど、不可解な点が多い。ムーアさんらと協力しながら真相を解明したい。
 
 (2018年12月18日配信)
やすだ・じゅんぺい

名前 :やすだ・じゅんぺい

プロフィール:1974年埼玉県生まれ。一橋大卒。信濃毎日新聞記者を経てフリーに。イラク戦争やシリア内戦などを取材。2015年6月「シリアに密入国する」と共同通信記者にメール後、消息を絶った。

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