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人口減少に備えを 視標「国鉄分割・民営化30年」

損保ジャパン日本興亜顧問 本田勝

 旧運輸省時代に、事務方の課長補佐として旧国鉄の改革に携わった。その方向性を示した政府の国鉄再建監理委員会が1985年に出した意見では、国鉄のように、自主性の欠如した制度の下で全国一元の巨大組織として運営されている経営形態の限界を指摘した。

 抜本改革策として、分割・民営化を基本に、巨額の債務は適切な処理を行い、過剰な要員体制を改める。旅客会社は新幹線収入が柱となる本州を3社に分け、北海道、四国、九州の3社には経営安定基金による収益調整措置を取り入れる。そして各社とも、収入のおおむね1%程度の利益が出るように設計するよう求めている。

 87年に分割・民営化された後の状況を見ると、JR東日本、東海、西日本の本州3社は2002年から06年に相次いで政府が全株式を売却し完全民営化。16年には不動産など鉄道以外の事業を大きく伸ばしたJR九州も純民間会社となった。

 サービス水準も向上した。列車がスピードアップし、本数も増えて路線同士の相互直通運転が拡大、15年度までに245もの新駅が設置された。Suica(スイカ)などICカードが導入され利用区域も広がる。

 不動産業に加え、「駅ナカ」に代表される物品販売にも力を入れ、多角経営となった。当初の見込み以上に民営化の成果があった。旧国鉄の下で破綻した日本の鉄道が再生されたと言える。

 民営化の最も大きな効果は、JR各社の経営が自立し、社会や経済の変化に自らの判断で柔軟に対応できるようになったことだ。旧国鉄のように鉄道の整備や経営方針などすべてが国に翻弄(ほんろう)されていては、これほどの改革は不可能だった。

 一方、JR北海道は16年11月、全路線の半分に当たる区間を「単独では維持困難」と表明、バス転換や維持費用の負担について沿線自治体に協議を呼び掛けた。民営化時と現在を比べると、札幌圏の輸送は増えたが、それ以外の路線は軒並み減少し、10分の1にまで減ったところもある。

 高速道路の供用延長は6・5倍を超え、道内人口の減少や札幌圏の人口集中という経営環境の大きな変化が影響した。経営努力が足りない面もあるかもしれないが、分割・民営化の負の側面というより、人口が減少する地域をどう維持するのかという新たな課題として捉えるべきだ。

 今後議論すべきは、地域の生活を維持するために不可欠な交通を、どう確保するかだ。東日本大震災の津波で不通となったJR東日本の気仙沼線などの一部が、専用道路や優先レーンを定時運行するバス高速輸送システム(BRT)による復旧で合意された例もある。

 鉄道を守るのか、バスに転換するのか、乗り合いタクシーを活用するのかなどは、国、地元自治体とJR各社らが費用負担も含め話し合う。他に方法がなければ、鉄道運行の赤字をJRだけに押し付けるのでなく、今までの制度にこだわらず新しい発想で支援の在り方を考えてもいいはずだ。

 50年に日本の人口は1億人を切って9700万人になると想定される。増える訪日外国人旅行者の利用を増やすことや、駅に介護や保育の施設を造って地域の中心としての役割を強化することなど、今後30年の人口急減社会に備えるのがJR各社の次の課題である。

  (2017年4月1日配信)

本田勝

名前 :本田勝

肩書き:損保ジャパン日本興亜顧問

プロフィール: ほんだ・まさる 1953年岐阜市生まれ。東大卒。76年に旧運輸省に入り、国土交通省鉄道局長、事務次官を経て2015年から現職。

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