世界を変えたカロリーナ~その1~

人生を変える出会い、というのがあります。私が彼女の存在を知ったのは2011年のこと。世界中から将棋プレーヤーが集まる、多言語対応のオンライン将棋対局場〝81Dojo〟の運営者である川崎智秀さんから、〝oneyeさん〟という強い女性がいると聞いたのです。
過去の対局棋譜を調べてみたところ、飛車角を振り回すのが好きな、少し悪く言えば〝やんちゃ〟な将棋で、とても興味を引かれました。それは忘れもしない3月11日の東日本大震災前日で、翌日の晩、帰宅して〝81Dojo〟にログインすると、チャットウインドーが心配のメッセージであふれていたのをよく覚えています。
その後〝oneyeさん〟と対局し、チャットで会話をするようになりました。駒をアーティスティックに積み上げた写真が何枚も送られてきたり、仲間たちと動物園で「どうぶつしょうぎ」のイベントをしたことを報告してくれたり。
いかに将棋を好きで、将棋と共に暮らしているかが伝わってきました。遠いところに暮らしているのに親近感が湧き、私はどうしても彼女に会いたくなりました。私は16歳で将棋を覚え、その後はあっという間にのめり込んで、将棋の道を歩むことに決めたのですが、もしかしたら彼女もそうなるのでは、と。
最初は私自身がポーランドに行くことを考えていたのですが、もっともっと将棋を知ってもらうためには彼女に日本に来てもらう方がいい!と気が付きました。行くのも来てもらうのも費用は大して変わらない、と彼女の飛行機のチケットを買ったのです。とはいえ、当時は日本中がまだ混乱していて、娘がそんなところに行くのは親としてはとても心配だったはず。それをなんとか説き伏せて、20歳になったばかりのカロリーナ・ステチェンスカさんは日本へとやってきました。
成田空港での初対面。言葉がなかなか通じない私たちは会話に詰まり、電車の中で「7六歩、3四歩…」と目隠し将棋をしました。家に荷物を置いてすぐに将棋会館道場へ。会話もままならない状態であたふたしながら、約2週間の滞在中、できる限り将棋に浸れるように予定を組みました。将棋以外の要望はまったく出てきませんでした。
唯一、観光に行ったのは将棋の町・天童。移動中もご飯の時も、布団の中でも、ずっと詰め将棋の本を手にし、カロリーナの世界は将棋を中心に回っていました。(北尾まどか)
![]() 初めての将棋会館
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![]() カロリーナの〝駒アート〟
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![]() 将棋会館で偶然会った森内俊之九段と
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![]() 将棋会館道場の成績表
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