金正男とリトビネンコ殺害事件に多くの共通点

2017年02月23日
共同通信共同通信
ロンドンの病院で治療を受けるリトビネンコ氏=2006年11月(ゲッティ=共同)
ロンドンの病院で治療を受けるリトビネンコ氏=2006年11月(ゲッティ=共同)

 捜査の進展につれ、連日メディアで大々的に報じられている北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男氏殺害事件だが、2006年には同様に、政敵を毒物で暗殺する事件がロンドンで起きている。元ロシア情報機関員アレクサンドル・リトビネンコ氏毒殺事件だ。一見すると毒物が使われたこと以外に関連はないようだが、不思議なことに多くの共通点を持っている。

 ▽ 政権への潜在的脅威

 正男氏は既に権力の中枢から長く遠ざかっており、正恩氏にとって脅威になる人物ではなかった。一方で世襲による権力継承には距離を置いていた正男氏の存在が、正恩氏の権力継承を正当化する上で潜在的な脅威になり得るとの見方があったほか、正男氏を利用しようとする反体制勢力の台頭の恐れもあったとされる。

 一方、リトビネンコ氏は旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後身、連邦保安局(FSB)職員だった際に、政商ベレゾフスキー氏暗殺計画を指示されたことを会見で暴露。当時のFSBトップだったプーチン大統領に公然と反旗を翻した。英国に亡命後は、300人近い死者を出した99年のモスクワなどのアパート爆破テロ事件は、チェチェン進攻の口実を得るためのFSBの陰謀だったとする著書を発表。同様に英国に亡命したベレゾフスキー氏とともにプーチン政権を徹底的に批判したほか、英情報機関との協力関係も明らかになった。毒殺当時も、プーチン政権を批判し暗殺されたロシア人ジャーナリスト、ポリトコフスカヤさんの真相究明のための情報収集をするなど、同政権にとっては潜在的な脅威だった。

 ▽ 公衆の面前で犯行

 正男氏は、クアラルンプール国際空港で白昼堂々、多くの乗客らがいる中で女2人に襲いかかられ顔面に何らかの液体を塗られた後に死亡。リトビネンコ氏はロンドンのホテルで容疑者であるKGBのルゴボイ元職員と会っている最中に、毒物を入れられた紅茶を飲み、その後体調を崩し死亡した。

 ▽ 不用意に容疑者特定につながる証拠残す

 クアラルンプール国際空港では保安上の問題から当然ながら、至る所に防犯カメラが設置され、正男氏襲撃の状況やその後逃走するベトナムとインドネシア国籍の女の様子もカメラにとらえられていたほか、重要参考人である北朝鮮大使館の2等書記官が国外へ逃れる北朝鮮の4容疑者を見送る様子も写されていた。襲撃の場所として、映像という証拠が残る空港を選んだのはなぜなのだろうか。

 リトビネンコ氏の場合、殺害に使われた毒物が放射性物質ポロニウム210だったことが容疑者特定の決め手となった。犯行現場のほか、ルゴボイ元職員らが宿泊したホテルや航空便、レストランなどから次々と放射性物質の痕跡が見つかり、元職員らの関与は否定しようもないものとなった。ポロニウム210は致死量を製造するため原子炉など大規模な設備を必要とすることから、単に個人の犯罪ではなく、ロシア政権の関与を裏付けることにもなった。犯人はポロニウム210が極めてまれにしか存在しない物質であることから、リトビネンコ氏の司法解剖に当たる英捜査当局が死因を特定できないだろうと考えた(実際、当初は毒物のタリウム中毒と誤認され、その治療を受けた)とみられるが、放射性物質を使ったことで逆に、自分たちの動きがすべて追跡可能な形となってしまった。

 ▽ 荒唐無稽な主張

 北朝鮮の朝鮮法律家委員会は正男氏殺害について「南朝鮮(韓国)当局が台本をあらかじめ作っていた。(北朝鮮のイメージに泥を塗るための)陰謀策動だ」とする報道官談話を発表。韓国の陰謀との荒唐無稽とも言える主張をした。

 FSB元長官のコワリョフ氏は、リトビネンコ氏殺害は盟友であるはずのベレゾフスキー氏の仕業であると示唆。多くのロシア国営メディアがコワリョフ氏の発言を引用した。

 ▽ 容疑者の引き渡しを拒否

  ロシアに帰国したルゴボイ元職員らの引き渡しを求める英当局の要求に対し、ロシア政府は憲法上の規定を口実に拒否。現在も事件への元職員や政権の関与を否定している。07年には、元職員は極右政党から下院選に立候補し当選。不逮捕特権を持つ議員となったことで身柄引き渡しはますます困難となった。

 マレーシア当局は北朝鮮に帰国した北朝鮮国籍の容疑者4人の引き渡しを求めているが金正恩政権が続く限り、その可能性は極めて低いだろう。

 ▽ 倫理観や法の支配を無視する体制

 たとえ、どのように意見が違う政敵であっても司法や選挙などの手段を通じたデュー・プロセス(適正手続き)を通じて対抗していくべきと言うのが、法治国家の基本だ。相手を黙らせるために殺害するというのは倫理的にも許されず、国際法上も同原則は保障されなくてはならないが、こうした考えが体制側で根本的に欠如しているようにみえる点でも二つの事件は似ている。 (47NEWS編集部 太田清)

 【リトビネンコ氏毒殺事件とは】 ロシアの情報機関、FSBの元中佐でプーチン政権を批判するリトビネンコ氏が06年11月、亡命先のロンドンで体調を崩し死亡。体内から致死性のポロニウム210が検出された。英司法当局はロシア在住で、同氏とロンドンで接触したKGBのルゴボイ元職員らを容疑者と断定。英政府は身柄の引き渡しを求めたが、ロシアは拒否。真相究明のため英政府が設置した独立調査委員会は16年、プーチン大統領が殺害を承認した可能性が高いとする報告書を発表した。

新聞社の注目記事

ベトナム人実習生、偽造品販売に手を染めるケース相次ぐ 来日時に借金、コロナ禍で生活困窮
12月05日
北海道新聞北海道新聞
ロイホ「パンケーキ」酷評、思わぬ余波 ネットで擁護拡大、品切れも
12月05日
西日本新聞西日本新聞
カセットこんろのガスボンベ破裂か 焼き肉中の爆発で重体の女性客が死亡 伊丹、業過致死容疑視野に捜査
12月04日
神戸新聞神戸新聞
男性トイレに汚物入れ…設置に努める医療関係者の思い 福井、小倉智昭さんも普及のきっかけに
12月05日
福井新聞福井新聞
坂井市職員を収賄容疑で逮捕 福井県警、贈賄疑いで建設会社の役員も
12月05日
福井新聞福井新聞
「戦術三笘」は実は筑波大時代から 当時から抜きんでた存在に監督「チーム勝たせろ」 卒論にもまとめていた
12月04日
東京新聞東京新聞
  • 共同通信会館
  • 地域再生大賞
  • ふるさと発信
  • 弁当の日
  • 共同通信会館
  • 地域再生大賞