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【195】白鷹 特撰 本醸造 黒松(はくたか)【兵庫】

2010.6.29 22:58
兵庫県西宮市 白鷹
兵庫県西宮市 白鷹

 いいなあ、旨いなあ、と思って買いに走っても、なかなか買えない酒がある。超有名な全国区酒「白鷹」もそうだった。全国区酒なのに買いにくいなんて、信じられない。

 昨年の3月下旬。東京・築地の某うなぎ屋で、家族で食事をした。うなぎの前に、酒を飲む。メニューを見たら、選択肢が無い。酒は「白鷹 特撰」だけ。うなぎ屋といい蕎麦屋といい、東京の老舗は、案外こんなもんだ。潔いほどシンプル。それが粋なのか。で、白鷹のぬる燗1合を注文する。

 ひとくち飲んで、ぶったまげた。酒が、ズンという感じで来たのだ。味が太い。そして、酸も来た。ややや、これはすごい。そして、辛さが尾を引く。余韻が長い。骨太のなかなか良い酒。予想外の味に驚く。やっぱり、大手酒造メーカーは、つくりが上手だ。白鷹。名は一般的な、昔からある全国区酒だが、こんなにすごかったのか。

 さっそく欲しくなった。どこでもすぐに買える、とおもった。まず、近くのスーパー3店を回った。どの店にも無い。ん?ん? このあたりで、異常を感じる。「白鶴」はどこでも置いているのだが、「白鷹」が無い。酒量販店にも行った。無い。「なんなんだ、これは。全国区酒なのに、なぜ、無いのだ」と。いよいよあやしい。この酒をどうすれば手に入れることができるのだ。

 そして、わたくしが酒の師匠と仰いでいる、J酒店に行った。幸い師匠がいた。「白鷹ほしいんだけど、どこにも置いていないんですよ」。師匠いわく、「こないだまで白鷹の取り扱い店は当県にあったのですが、今はどこも扱っていませんよ」。むむむ、そうだったんだ。だから、どこにも置いていなかったんだ。文章に書くと、時間経過はすぐだが、実は、白鷹探し始めてここまで1カ月以上も要したのだった。

 当県内に取扱店が無い、ということは、蔵ルートで買うのが手っ取り早い。で、白鷹のホームページを開き、取扱店のサイトに飛んだ。幸い、ネットでの注文を受け付けている。1カ月以上も探し回らないで、このサイトから注文すればよかったなあ、と思う。が、走り回ったおかげで、さまざまなことを知ったから、まあ、いいや。ということで、やや逆上しながら、取扱店サイトに「白鷹 上撰」を1本注文した。2本注文しなかったのは、もし不味ければ大変な事態になるからだ。

 5月下旬。「白鷹 上撰 青松」が届いた。さっそく、ぬる燗にして飲む。ややすっきり系。余韻が軽く残る。クセが無い。酸味が強く、酒の表情にメリハリがある。あまり膨らまないが、食中酒として最適。厚みはほどほど、旨みはほどほどで軽快。キレが非常に良い。普通酒としては、非常にレベルが高い。しかし、しかし、である。うなぎ屋で飲んだ、あの「ズン」が来ないのだ。うなぎ屋では骨太な酒に感じたのだが、骨太じゃなく軽快なのだ。なぜだ、なぜだ?

 きっと、それまで飲んでいた「剣菱」に舌が慣れてしまっていたため軽快に感じたのだろう、とおもい翌日、ぬる燗で再挑戦してみた。飲むのが2回目ともなれば、口が慣れてきて、前回ほどはすっきり系には感じない。しかし、やっぱりすっきり系には間違いない…。酒の存在感はあるが、やはり、うなぎ屋で飲んだ「ズン」は来ない。厚みもあまりなく、やっぱり、すっきり系。飲み飽きしない、いい酒だが…。酸味も感じられていいが…。

 おかしい。翌5月末、再びぬる燗。やっぱり、すっきり酸味系。軽快で、飲み飽きしない。うううう…。

 6月上旬。趣向を変えて飲んでみた。「奥播磨 山廃純米」のぬる燗を2合飲んでから、ぬる燗の白鷹を飲んでみたのだ。白鷹は、酸が前面に出てきて、メリハリがあって非常に良い。奥播磨山廃純米という酸っぱい個性的な酒のあとに飲んでも、そんなに遜色は無い。しかし、「ズン」は来ない。

 6月中旬。こんどは常温で飲んでみる。やや熟成感があるが、酸が前面に出てきて力強い。が、やっぱり、うなぎ屋で飲んだときと、調子が違う。

 さすがに、おかしい、と気づいた。自分の舌は、そうバカではないはずだ。なぜ、タッチがこうも違うのだろうか。そこで、初心にかえって、うなぎ屋で飲んだときのメモを読み返してみた。

 ガーン!!! わたくしは、重大なミスをおかしていたのだ。うなぎ屋で飲んだのは「白鷹 特撰」。わたくしが購入したのは、それより1ランク下の「白鷹 上撰」だったのだああああ。一番安い酒、という思い込みで買ってしまったのだああああ。失敗した。味が違って当然だったのだ。

 原因が分かったら、買うしかない。気を取り直し、こんどはきちんと「白鷹 特撰」を、先のネット取扱店に注文した。こうして、晴れてめでたく、念願の「白鷹 特撰 本醸造 黒松」を飲んだのは7月上旬だった。うなぎ屋で飲んでから、すでに3カ月以上もたっていた。

 まず、ぬる燗で飲む。おっ、辛口だ。余韻がジンジン、ズンと尾を引く。これだ、これ。この「ズン」だ。うなぎ屋で飲んだ酒がよみがえる。ほんの若干、熟成感を感じる。キレは良く、余韻がいつまでも残って楽しめる。酸もかなり感じる。まさしく食中酒。しかし、うなぎ屋で飲んだときのような感動はない。余韻のジンジンがいい。うなぎ屋で飲んだときの第一印象とはやや違い、それほど骨太さは感じない。なぜ? 「白鷹 特撰 本醸造 黒松」は、まさしく普通の酒だった。冷めてきて、燗冷ましに近い状態になったら、酸がずいぶん出てきた。

 念願の「白鷹 特撰 本醸造 黒松」を飲んだあと、飲み比べのために、0.5合くらい残しておいていた「白鷹 上撰 青松」をぬる燗にして飲む。特撰と比べると、甘みを感じる。特撰のような、余韻のジンジンが無い。若干の熟成感は、特撰よりは強いか。とにかく、スッとくる。余韻があまり無い。特撰と上撰の違いは明白だった。

 わたくしが、上撰をずっと飲んでいたとき、「変だなあ、うなぎ屋で飲んだときとは違うなあ」と疑問を持ち続けてきたことは、実は大正解だったのだ。この飲み比べで、証明された。「自分褒め」だが、構うもんか。

 特撰を初めて飲んだ翌日、特撰を再びぬる燗で飲んでみた。酸が前面に出てくる。ズンときて、厚みがあり、本醸造とはおもえない旨さだ。その次、常温で飲んでみた。やや熟成感がある。酸は、おとなしい。非常にまとまっているような飲み口だが、ぬる燗のときのような「ズン」とは来ない。余韻も弱い。すべからく、おとなしめの調子だ。これは、圧倒的に燗の方がいい。

 わたくしの、ロングラン「白鷹の旅」は、これにて終了、である。

■酒蛙がツイッターをやっています。http://twitter.com/sakekaeru

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