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【467】京ひな 女神 純米吟醸(めがみ)【愛媛】

2011.4.7 22:13
愛媛県喜多郡内子町 酒六酒造
愛媛県喜多郡内子町 酒六酒造

【ひとり酒 全2回の②完】

 世間の自粛モードで疲弊している街にカネを落とそう、とひとりで繰り出したわたくし。まず、T居酒屋で「東北泉 雄町純米 辛口」を冷酒・ぬる燗合わせて2合飲み、歩いてM居酒屋へ。

 先週、M居酒屋に行ったときは、客がカウンターに2人しかいなかったが、今回は、カウンターに4人、テーブルも客で満員だった。

 カウンターに座ると、嫌でも背後のテーブルの話し声が聞こえてくる。学校の先生たちのようだ。送別会のようだ。ん? 送別会? M居酒屋はまともな料理を出さないので、ずばり二次会的な店。なのに、ここで一次会の忘年会をやるとは! 一次会と二次会を兼ねた忘年会なんだろうな。出費を節約しての忘年会なんだろうな。そうおもうと、街の活性化のために繰り出そうとしたわたくしが、なんだか態度がデカいニンゲンのようにおもえてきて、自己嫌悪で滅入ってしまった。

 さて、気を取り直して、ガラス越しに冷蔵庫の中を見る。見慣れたラベルの瓶が並ぶ中にあって、「ややや」の瓶が1つあった。「女神」だ。聞いたこともない、見たこともない。なんだ、このあやしい酒名は。しかも、夏酒のような青い瓶。う~む、う~む、なんだ、この酒は。

 酒蛙「どこの酒ですか?」

 店主「愛媛の酒です。穏やかで、やさしい酒です」

 酒蛙「いましがた、居酒屋で、男っぽい『東北泉』を飲んできたよ」

 店主「ならば、いま飲むとちょうどいい。『東北泉』とは全然違いますので。違いが明瞭に分かります」

 まず、冷酒でいただいてみる。まったり、まろやか、旨みたっぷり。甘みは感じるが、酸は感じない、店主が言う通りの穏やかな飲み口だ。全体に熟成感がある。

 店主「この蔵の『吹毛剣』や『七星剣』を入れたかったんですが、無かったので、これを入れたんですよ」

 酒蛙「良く言えば、まったり、やわらか、滑らか、やさしい。悪く言えばメリハリ無し。燗にすればメリハリが出るとおもう、このような酒は。旨みがあるからね」

 そこで、この酒のぬる燗を1合つけてもらう。基本的には冷酒と同じ飲み口だった。ぬる燗にしても熟成感は感じられるが、今度は酸味が出てくる。非常に旨い。店主と一緒に飲む。

 店主「あっ、なるほど。新しい味が出てきますね」

 酒蛙「あ、旨っ!」

 店主「この酒、当県では初登場ですよ」

 酒蛙「余韻は酸です」

 わたくしの隣りに、新しい客が座った。ずいぶんお洒落な中年紳士。常連さんらしい。わたくしが「女神」の瓶を目の前に立てていたら、その紳士も「それを飲む」と注文した。やはり、「女神」という酒名が珍しいらしく、つい、飲んでみよう、という気持ちになったのだろう。

 店主が「お燗にして召し上がったらいかがでしょうか?」と、今しがた新たに経験したことをすぐ営業に生かす。なかなか柔軟性に富んだ店主だ。紳士は「じゃあ、お燗で」と注文しつつ、「あ、冷酒もグラスにちょっとちょうだいね」。冷酒とぬる燗を飲み比べてみよう、というわけだ。普通の人にはできないことだ。なかなかの飲み手とみた。

 その彼がなんと言うのか、注目して待った。「燗の方がいいね」。そう言って、彼は旨そうに猪口を傾けた。「そりゃ、そうだろう」。声には出さなかったが、店主とわたくしは目を合わせ、うなずき合った。