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表現規制、慎重さ欠く  核心評論「ツイッター判事に戒告」

共同通信編集委員 竹田昌弘

 最高裁が10月17日の分限裁判決定で、戒告とした岡口基一東京高裁判事のツイッターへの投稿は「え? あなた? この犬を捨てたんでしょ? 3カ月も放置しておきながら…裁判の結果は…」などとしてネットの記事に誘導する内容だった。

 取り上げたのは、犬嫌いの同居男性が飼い犬を公園に置き去りにし、それを約3カ月放置していた女性が男性と別れ、犬を拾って飼っていた人に対し、返還や慰謝料を求めた裁判。判決は一、二審とも返還を命じた。

 この投稿について最高裁は、犬を拾って飼っていた人の言い分を要約して述べ、女性を傷つけたなどとして「一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準とすれば、そのような訴訟を飼い主が提起すること自体が不当であると(岡口氏が)考えていることを示す」と認定した。

 しかし、ツイッター利用者の大半は、岡口氏にそこまでの意図はなく、話題になりそうな裁判を紹介したかっただけと受け取るのではないか。

 何より表現の自由は最高裁判例で「基本的人権のうちでもとりわけ重要なもの」とされている。表現行為を巡って裁判官が同様に戒告とされた前例では、表現規制は「合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところ」という判断の枠組みが示された。

 ところが、最高裁は今回、この枠組みに従って投稿に対する懲戒申し立ての合憲性を検討せず、憲法判断を示すことなく「表現の自由として裁判官に許容される限度を逸脱した」と断じた。

 表現規制に慎重さを欠き、それでも「憲法の番人」かと不安になる。

 決定理由の「(裁判官が)表面的かつ一方的な情報や理解のみに基づき予断をもって判断をするのではないかという疑念を国民に与える」「裁判官に対する国民の信頼を損ね、裁判の公正を疑わせる」という指摘から、思い出した判決がある。

 夫と不倫を続けたとして、妻が東京・銀座のクラブママに損害賠償を求めた訴訟の判決(2014年4月14日)。東京地裁の裁判官は「枕営業」であり、売春婦と同様、客の性欲処理に商売として応じたにすぎず、婚姻生活を害さないと判断し、妻を敗訴させた。

 ママ側は「枕営業」と主張しておらず、裁判官が表面的、一方的な情報や理解に基づき予断をもって判断したものだ。

 妻は「これ以上嫌な思いはしたくない」と控訴しなかった。司法に幻滅したに違いない。岡口氏の投稿よりも、こんな判決こそ裁判官への信頼を損ね、裁判の公正を疑わせるのではないか。

 岡口氏は多くの弁護士が使う民事訴訟の専門書を刊行する一方、白いブリーフだけの写真を投稿するなどして有名な裁判官だった。要は、型にはまらない裁判官を懲らしめたかっただけではないのか。

 (2018年10月30日配信)

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