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第1部「ポスト平成の病院改革」(1) 患者ニーズと合わない病床  「なんちゃって急性期」も

2018.11.5 15:31 市川亨

 「ちょっと手を上げてみましょう」「いたた」。2018年3月中旬、横浜市の平成横浜病院。入院患者の堀田美代子(72)=仮名=が職員と一緒にリハビリに励んでいた。「痛いけど、前は上がらなかった左手が今は上げられる。リハビリってすごい」

 堀田は17年12月、脳梗塞のため別の救急病院で手術を受けた。左半身にまひが残り、約3週間後に平成横浜病院へ移ってきた。同病院は積極的にリハビリを施す運営方針で、堀田も毎日ほぼ3時間、歩行や日常生活動作の訓練を受ける。

 「脳梗塞のリハビリは最初の3カ月が勝負」と担当の理学療法士、中村拓也(23)。堀田の場合は早めにリハビリを始めたため自宅に戻れそうだが、全ての患者がそうとは限らない。「最初に搬送された急性期病院で1~2カ月間、リハビリをしないままだと寝たきり状態になりやすい」。家族が「もっと早くこちらへ転院していれば」と悔やむこともあるという。

平成横浜病院で機能回復のためリハビリを受ける堀田美代子(仮名)
平成横浜病院で機能回復のためリハビリを受ける堀田美代子(仮名)

 日本の医療提供体制は、全国130万床余りのベッドのうち約6割を重症患者向けの急性期病床が占める。だが「そんなに重症患者はいない」というのが医療界の一致した見方。急性期病床は増え過ぎたのだ。なぜか。

 最大の要因は、患者7人に看護師1人という手厚い態勢の「7対1病床」が06年度に設けられ、高い診療報酬が支払われるようになったことだ。患者の状態とは関係なく、看護師の配置数を満たせば高収入が得られるため、多くの病院が「7対1」に殺到。厚生労働省の想定をはるかに超え、現在約35万床ある。

 「たいした治療もリハビリもしないのに、収入になるからと患者を置いておく『なんちゃって急性期』が多すぎる」と平成横浜病院理事長で日本慢性期医療協会会長の武久洋三(76)。「急性期での長期入院が寝たきり高齢者を生み、医療・介護費が増える悪循環を招いている」と手厳しい。

 少子高齢化に伴い、生活習慣病やリハビリといった高齢者向けのニーズはますます高まる。急性期病床を減らし、リハビリ向け病床や在宅医療を増やそうと、国が17年3月までに都道府県に策定させたのが「地域医療構想」だ。25年までの構想実現に向け、各地で病床の機能転換や削減の議論が本格化するが、医師の間では「急性期こそ花形」という意識が強い。合意形成をどう図るか、いばらの道だ。(敬称略、年齢は取材時点)
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 2025年、団塊の世代が全員75歳以上になる。超高齢化で病院を取り巻く風景は様変わりしそうだ。ポスト平成時代に向け、改革の波にさらされる現場を歩いた。

 

   
   

◆地域医療構想 2014年成立の地域医療・介護確保法に基づき、都道府県が策定した地域医療の将来像。団塊の世代が全員75歳以上になり、医療・介護費の急増が見込まれる25年に向け、効率的な医療提供体制を築くのが目的。病院のベッドを、重症で集中的な治療が必要な患者向けの「高度急性期」、一般的な手術をする「急性期」、リハビリ向けの「回復期」、長期入院の「慢性期」の4機能に分け、全国341の「構想区域」ごとに25年の必要病床数を推計している。人口減などに伴い、急性期と慢性期の病床は過剰になるとして、他の機能への転換や在宅医療への移行を進める。全国の病床数は15年時点で133万1千床だが、25年には119万1千床に減らす必要がある。構想実現の費用に充てるため「地域医療介護総合確保基金」を各都道府県に設置した。

 

 

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