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日銀債務超過を警戒 視標「論考 総裁選」

日本総合研究所上席主任研究員 河村小百合 

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」の特徴は、足元の良好な景気をどう維持するのかにばかり関心が集中していることだろう。少子高齢化が進む中で、既に世界最大規模の借金を積み上げている日本で、どうすれば安定的な経済、財政運営を継続できるのかという道筋は全く描けていない。

 第2次安倍政権の発足後、財政は大盤振る舞いが続いてきた。この間、消費税率の10%への引き上げを2度延期。財政健全化の目安である基礎的財政収支の2020年度の黒字化目標も棚上げし、5年後に先送りした。

 国の歳出の構造上、社会保障と地方財政が財政再建の大きな鍵を握るのは論をまたない。

 しかし12年に旧民主、自民、公明の3党で合意した「税と社会保障の一体改革」は実質的にほごにされ、議論は停滞した。中央集権型の地方財政制度をいかに現実に即した持続可能なものに改革するかという議論も一切、行われていない。

 日本の潜在成長力が一向に向上しない理由は経済の構造面にある。日銀の大規模な金融緩和による超低金利に政府系金融機関の肥大化が加わり、市場を通じた資源の再配分機能は働かず、産業の新陳代謝は進まない。

 成長力底上げのために主要国がしのぎを削る研究開発でも日本は近年、中国などの新興国に大きく後れを取った。

 成長に向けたエンジンがかかりにくい構造に変質してしまっているにもかかわらず、アベノミクスの成長戦略ではこうした構造問題に手を付けず、企業の「たいこ持ち」のような小粒の政策を並べるにとどまる。

 それでも表面上「無風」なのは、ひとえに日銀が量的緩和を通じて国債を事実上引き受け、政府の財政資金を賄う「財政ファイナンス」による。そのコストは国内外の金融、経済情勢の変化によって日銀が利上げを迫られる局面で表面化する。

 日銀が市場金利を引き上げる方向へ誘導するには、400兆円規模に達する民間金融機関の当座預金に金利を付けるしかない。一方、量的緩和で買い入れた国債などの利回りの平均は0・3%に満たない。仮に短期の市場金利を1・3%に引き上げるよう誘導するだけで1%の逆ざやが生じ、毎年4兆円の損失が発生する。

 日銀の自己資本は約8兆円しかない。大規模緩和に終止符を打ち、金融政策を正常化するには少なくとも10~20年の長期間を要し、日銀の累積損失が数十兆円規模に達するとの試算も複数ある。

 日銀が将来陥るであろう巨額の債務超過は日本の経済、財政運営に赤信号をともすことになりかねず、アベノミクスが今後の日本経済にもたらす最大のコストであろう。

 米国、英国の中央銀行は大規模な緩和措置に伴うこうしたリスクについて、当初から国民や市場に丁寧に説明し、過度に深入りする前に政策を修正し、正常化させつつある。英国は政府が中銀を支援する枠組みも整えている。ところが日本では、アベノミクスのこの最も深刻な問題に一切、手が付けられていない。

 国会の安定多数を握る与党の自民党は、日銀の金融政策運営との関係性も含めて、国の経済、財政が今後も安定的に運営される道を確保する責務を負う。総裁選ではこうした政策運営上の課題から逃げずに、正面から取り上げ、議論を深められるかが注目される。

 (2018年9月7日配信)

かわむら・さゆり

名前 :かわむら・さゆり

プロフィール:神奈川県出身。京都大法学部卒。専門は公共政策、財政、金融。日銀での勤務経験を持つ。

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