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絶望的に進む司法統制  特別寄稿「ツイッター分限裁判」

東京高裁判事 岡口基一
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東京高裁判事の岡口基一さん=9月5日、東京都千代田区の日比谷公園
東京高裁判事の岡口基一さん=9月5日、東京都千代田区の日比谷公園

 ツイッターへの投稿で訴訟当事者の感情を傷つけたとして、東京高裁から懲戒を申し立てられた同高裁の岡口基一判事が共同通信に寄稿し、反論した。懲戒は戒告処分か1万円以下の過料で、その当否は最高裁の分限裁判で判断される。

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 司法制度改革で弁護士余剰時代が到来し、弁護士転身が困難となった裁判官は、組織の中で賢く生きていくことが人生の第一目標となりました。

 有志で勉強会やグループを立ち上げるという、司法行政当局に目を付けられる動きもなくなり、今や、裁判官の管理は赤子の手をひねるくらい簡単です。


 まだ一般的でなかった男性の育児休暇取得にチャレンジした若い裁判官がいましたが、当局に逆らった代償を痛いほど味わいます。所属先の部総括判事が裁判官・職員に彼と話すのを禁じ、彼には仕事を与えませんでした。明らかなパワハラが半年も続き、この裁判官は依願退官しました。


 司法の本質は、多数決原理が支配する立法・行政によって侵害された少数者の権利を守ることです。多数意見、すなわち世論に逆らってまで少数者を保護する結論を出すには、よほどの裁判官としての自信と、深い教養が必要となります。


 サラリーマン化した「忖度(そんたく)」裁判官にそのようなものはなく、代わりに世間の風を読んで結論を出し、もっともらしい理屈を付ける国語力があります。多数決原理で国民に決めてもらうというのでは、司法は要りません。しかし現実は、国民に原発について決めてもらうべきだと明言する高裁決定が現れる始末です。


 サラリーマン裁判官ばかりとなった結果、優秀で知れわたる裁判官も皆無となり、個人的に法律書を出版する裁判官もすぐ皆無となりそうです。


 諸外国の裁判官は、大変な権威があります。豊富な実務経験や法律知識を持ち、誰しも優秀と認める弁護士の中から、選挙で裁判官が選ばれたりするからです。


 一方、日本は司法試験の点数が良ければ裁判官になれます。20歳半ばで裁判官となり、仕事をしながら成長するシステムですが、日々の仕事に追われて研さんを積めない状況にあります。


 そんな裁判官でも権威を保つ方法は、裁判官個人を徹底的に秘密のベールに包んでしまうことです。どんな人たちなのか分からなくすることで、権威の失墜を防いでいます。裁判官の素顔が表に出ては困るのです。


 以上の予備知識を得た上で今回の申し立てを見ると、ツイッターに裁判の紹介をしただけの裁判官が、どうしてスマホ盗撮や痴漢をした裁判官がかけられる分限裁判の対象になったのかが、よく分かると思います。


 世間では、裁判の紹介は盗撮や痴漢とは全く違うのですが、司法行政当局からすると、御しやすい裁判官ばかりの中に、言うことを聞かない裁判官が1人いて、しかも素顔をネットで出し続けているので、どんな手段を使ってもやめさせるのが当然のルールなのです。


 分限裁判は当局の事実上の了承を得た上で、東京高裁長官が申し立て、その裁判長は、当局のトップである最高裁長官が務めます。訴追を事実上了承した者が裁判長を兼ねているというのですから、これほど不公平な裁判はありません。


 これまで戒告処分となった裁判官の多くは辞職に追い込まれ、今回も処分後は、育休取得の裁判官が受けたような仕打ちが待っており、耐え切れずに辞職する可能性が高いというわけです。


 さて今回の発端は、私がある裁判の記事をツイートしたところ、拡散を望まない当事者がツイートの削除を求めて東京高裁を訪れたことでした。


 ところが、高裁は申し立てについて、記事内容も含めてマスコミに発表したため、記事は拡散防止どころか、日本中に知られるところとなりました。当局が利用者である訴訟当事者のことを全く考えていないことが、はっきりと分かります。


 自分たちの論理貫徹が最優先で、当事者の不利益など二の次なのです。


 元最高裁調査官の瀬木比呂志明治大教授は2014年の著書「絶望の裁判所」で、当局による徹底した裁判官管理を告発しました。その後、さらに絶望的に、当局の裁判官統制が進んでいます。私の分限裁判が、その何よりの証しなのです。

 (2018年09月05日配信)
おかぐち・きいち

名前 :おかぐち・きいち

プロフィール:1966年大分県生まれ。東大卒。94年に判事補となり、大阪高裁判事などを経て現職。著書多数。代表作「要件事実マニュアル」は弁護士などの間でベストセラーに。

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