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災害をだしにするな 連続視標「自民改憲条文案」4回続きの(3)緊急事態

弁護士 永井幸寿
 自民党がまとめた憲法改正条文案のうち、緊急事態の条項は、まず大規模な災害時に政府が法律と同じ効力の政令を制定できるとする。

 戦前の大日本帝国憲法(旧憲法)の「国家緊急権」である「緊急勅令」を復活したものだ。国会による法律制定を「待ついとまがない」と政府が判断するなら、たとえ国会の会期中でも、国会を無視して制定できる。旧憲法でさえ、議会閉会中を要件として議会を尊重していたのに、である。

 また「国民の生命、身体および財産を保護するため」であれば、どのような政令も制定できる。大災害との関連は必要ない。「国民の生命、身体、財産を守る」として、安全保障法制の改正さえできるのである。

 さらに政令は、国会の承認を求めるとするが、承認がないときに効力を失うとは定めていない。旧憲法でさえ、議会の承認がないと将来に向かって効力を失うと定めた。

 つまり、国会は政府を全く統制できなくなる。政府に立法権を全権委任したナチスの制度と同様の性質を持っている。国民主権が崩壊する極めて危険な制度である。

 そもそも、災害対策の原則は「準備してないことはできない」である。平常時から過去の災害を検討して対策を立てるべきものである。

 国家緊急権は災害が発生した後に泥縄式に権力を集中する制度だが、どんな強権も、準備していなければ対処できない。

 被災市町村のアンケートでは、92%が主導的権限は原則として市町村が持つべきだとする。政府への権力集中とは真逆である。被災者に最も近い市町村に情報が入り、効果的な対処ができるからである。

 国がすべきことは、人・物・金による市町村の後方支援である。さらに現行法制は災害対策を十分完備しており、国会が機能しない場合には、厳格な要件で生活必需品など4項目につき、内閣が政令を出す制度が規定されているのである。

 次に条文案では、大災害で適正な選挙ができないときの任期延長を提案している。

 これは災害が発生した後に、災害対策立法を行うという考えだが、前記の通り、災害対策は平常時から準備、立法しておくべきことである。

 また現行憲法では、参院選ができないときも非改選議員が2分の1いるので、参院は活動ができるし、衆院解散中は、参院の緊急集会が国会を代替できる。

 衆院議員の任期満了時に起きた大災害のために任期延長が必要だとの意見があるが、任期満了時の選挙は現行憲法制定後1回しかなく、このときに大災害が発生する確率は極めて低いので、そもそもニーズがない。

 仮に発生しても緊急集会の規定を準用できる。任期延長の制度も必要性は全くない。

 災害対策は、目の前の被災者をどう救済するかが全ての出発点であり、国にどのような権力を持たせるかが出発点ではない。

 「災害をだしに憲法を変えてはいけない」。東日本大震災で被災した人の言葉である。
 
緊急事態の条文案要旨】
 ▽73条の2(新設)
 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体および財産を保護するため、政令を制定することができる。
 ②内閣は、前項の政令を制定したときは、速やかに国会の承認を求めなければならない。
 ▽64条の2(新設)
 大規模な災害により、衆参両院選の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、各院出席議員の3分の2以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
 
 (2018年3月26日配信)
ながい・こうじゅ

名前 :ながい・こうじゅ

プロフィール:1955年東京生まれ。90年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。元日弁連災害復興支援委員長で、衆院憲法審査会の参考人も務めた。著書に岩波ブックレット「憲法に緊急事態条項は必要か」など。

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