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カエデの恵みで森林再生 秩父百年の森(埼玉県秩父市、第6回優秀賞)

2018.4.4 15:00
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 薪の火で煮詰められ、琥珀色になったカエデの樹液。かまどの熱気と甘くこうばしい香りが漂う。2月末、埼玉県秩父市街を見下ろす丘陵にあるカフェ兼工房「メープルベース」では、山に自生するカエデから早春の数週間しか採取できない樹液を40分の1に濃縮、メープルシロップを作る作業に追われていた。

カナダから国内で初導入したメープルシロップ製造機。煮詰め過ぎないよう作業中は目が離せない。
カナダから国内で初導入したメープルシロップ製造機。煮詰め過ぎないよう作業中は目が離せない。

 

 本場カナダ産よりカリウムやカルシウムを多く含むという純秩父産の製造を全面サポートするのが「秩父百年の森」(坂本裕三理事長)。カエデの樹液を特産品に加工する「伐らない林業」と、人工林で間伐を進める「伐る林業」を組み合わせて豊かな森づくりに奮闘してきた。

 ▽種から育てて植林続ける

 荒川の源流にあたり、市域の87%を山林が占める秩父市だが、約半分が戦後の拡大造林でつくられたスギやヒノキの人工林。島崎武重郎・副理事長は「多様な生き物を育む森本来の姿を取り戻したい」と話す。自生するブナなど広葉樹の種を採取し苗畑で高さ150センチにまで育て、針葉樹の伐採跡に植樹してきた。
 このうちカエデは、毎年約300本を山に帰すペースで進める。植樹後は枝打ちや下草刈りが針葉樹ほど手間がかからないのが特徴で、島崎さんは「常に誰かが山に入らないといけない体制は続かない」という。
 秩父百年の森は、2000年に山が大好きなメンバーが集まり活動を始めた。多くが山の所有者や林業者ではないが、森の魅力を体感するエコツアーや樹液の採取体験などのイベントを行い、賛同者を増やしてきた。発信拠点でもあるメープルベースを立ち上げた会員の井原愛子さんは、ツアー参加をきっかけにUターンしたといい、活動は若者も引きつけている。
 育苗などの作業はホームページで参加者を募集し、地元の中学・高校や東京大秩父演習林も協力。10年には秩父市と地元幼稚園と三者協定を結び、市有林で園児が森づくりに参加する環境教育にも力を入れる。

紫外線に反応する蛍光物質を持つアオダモ。手前の黄色い粉は「良薬は口に苦し」の語源ともなったキハダ。実際に山に入り、森の不思議と日本人の暮らしとの関わりを学べるエコツアーは驚きの連続だ
紫外線に反応する蛍光物質を持つアオダモ。手前の黄色い粉は「良薬は口に苦し」の語源ともなったキハダ。実際に山に入り、森の不思議と日本人の暮らしとの関わりを学べるエコツアーは驚きの連続だ

 

 ▽大学と共同で最先端の研究も

 学術的な裏付けも大事にしている。会員が秩父山地を調べ、国内に分布するカエデ28種類のうち21種類が自生する珍しい環境であることを突き止めた。樹液量や採取時の気温、採取後の生育状況も1本ずつデータ化。肝機能にいいとされるメープルシロップの成分を埼玉大や県立秩父農工科学高と分析したり、GPSで樹木の位置を計測し、カエデが好む土壌を解明したりと最先端の研究に取り組んできた。冬に伐採すると水が出て炭にもならないと厄介もの扱いされてきたカエデが宝に変わると、全国から視察も相次いでいる。


 ▽山小屋で味わった紅茶が出発点

 カエデと島崎さんとの出会いは大学時代にさかのぼる。立山連峰の山小屋でマタギの男性にふるまってもらったのがカエデの樹液で淹れた紅茶。深い甘さと美味しさに驚き、山小屋に3年間通って樹液の採り方を教わった。
 秩父商工会議所青年部にいたときに、特産品としてカエデの樹液活用を提案。12年には樹木の管理や共同販売を進める「秩父樹液生産協働組合」を山の所有者らと立ち上げた。「山の持ち主に収益を還元し、森の荒廃を止める循環を生みたい」。適正価格で取り引きしたスギを建材に採用し伐採地点まで追跡できる注文住宅や、売り上げの一部を森づくりに充てるメープルシロップ入りプリンなど、東京の企業とのコラボレーションも生まれた。
 

自生するカエデについて解説する島崎武重郎さん。植樹では土地本来の植生を調べて樹種を選定、樹液採取後のカエデの健康管理も徹底している。
自生するカエデについて解説する島崎武重郎さん。植樹では土地本来の植生を調べて樹種を選定、樹液採取後のカエデの健康管理も徹底している。

 

 大学との共同開発も進める。生薬の原料ともなるキハダの苦みと効能をいかしたサイダーやボディーソープを日本薬科大と企画。樹液や果物のジュースをミツバチに与えると、ミネラルなどの含有量が高い「第3のみつ」ができることも分かり、埼玉大などと特許を取得した。

メープルベースの店内には菓子やドレッシングなど多くのカエデ関連商品が並ぶ。製造初回となった昨年のメープルシロップは完売。今年の製造分は出荷間近だ。
メープルベースの店内には菓子やドレッシングなど多くのカエデ関連商品が並ぶ。製造初回となった昨年のメープルシロップは完売。今年の製造分は出荷間近だ。

 

 「森は人が手を貸せば百年で元に戻る。山から里、里から都市へと多くの人をつなげる新しい林業で、百年先を見据えた活動を続けたい」。島崎さんは力を込める。森づくりは着実に成果を上げている。(共同通信 錦織綾恵)

16年にオープンしたメープルベース。左から秩父百年の森の齋藤隆さん、井原愛子さん、島崎武重郎さん、加藤木隆さん。店内ではメープルシロップがけのパンケーキなど秩父の自然の恵みを味わえる。
16年にオープンしたメープルベース。左から秩父百年の森の齋藤隆さん、井原愛子さん、島崎武重郎さん、加藤木隆さん。店内ではメープルシロップがけのパンケーキなど秩父の自然の恵みを味わえる。

 

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