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ゆっくり走る電動バス、住民の足守る 「桐生再生」(群馬県桐生市、第7回優秀賞)

2018.3.30 11:52
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 運行する電動バスの前に立つ清水宏康・桐生再生社長(右端)と天谷賢児・群馬大大学院理工学府教授(中央)=群馬県桐生市
 運行する電動バスの前に立つ清水宏康・桐生再生社長(右端)と天谷賢児・群馬大大学院理工学府教授(中央)=群馬県桐生市

 

最高時速19キロ。ゆっくりと走る電動バスが地域社会の新たな足として注目されている。群馬県桐生市の「桐生再生」は、街並みを楽しむ観光に活用したり、公共交通の支えにしたりと、取り組みを続けてきた。同様の試みを取り入れる地域も出始め、次世代のまちづくりのツールとして存在感を増しつつある。

 ▽ひと味違う街めぐり

 電動バスは、地元にある群馬大工学部や企業などが開発した。桐生再生は、桐生市の委託を受けて2013年から運行。計八つの車輪を備え、10人が向かい合って座れる。エアコンなどの設備を省いて「走る」ことに特化することで、ガソリンエンジンのバスの電動化と比べて大幅なコストダウンを図ることができたという。

 最大の特色は、ゆったりとした動きだ。最高時速19キロのバスから眺める風景は、普段乗っているクルマとはひと味違う。窓ガラスのないオープンな車内では、街のにぎわいや話し声も聞こえてくる。あわただしい普段の生活からシフトダウンし、街めぐりを楽しむにはふさわしい手段だ。

 古くから織物で栄えた桐生市は、ピーク時には600余りの工場がひしめいていた。今も230余りの工場が残り、明かり取りのためにのこぎりの歯のように作られた独特の三角形の屋根は市のシンボル。桐生再生は〝産業遺産〟を残そうと、廃業した工場をワイン倉庫やパン屋などに再利用してもらう取り組みも進める。

 工場のレンガ壁を生かしてパン屋に改装。人気のスポットに=群馬県桐生市
 工場のレンガ壁を生かしてパン屋に改装。人気のスポットに=群馬県桐生市
中に入ると凝った内装や照明が訪れた人を迎える=群馬県桐生市
中に入ると凝った内装や照明が訪れた人を迎える=群馬県桐生市

 

 こうして生まれ変わった街並みや文化施設をめぐるルートを、電動バスは週末、ゆっくりと回る。運転手がガイドも務め、産業施設を観光に生かす試みだ。富山県黒部市の「でんき宇奈月プロジェクト」(第5回ブロック賞)も、この電動バスを温泉地に導入し、活用している。

 ▽公共交通の役割分担を

 電動バスのもう一つの役割として期待されるのは生活の足だ。桐生市内を走っていた民間の路線バスは、乗客の減少が進み1996年を最後に撤退した。このため、市は業者に委託して代替バスの運行を続けている。

 ただ、代替バスがカバーできない周辺地域は残る。こうした集落からバス停までの「ラスト・ワンマイル」を、公共交通網で、どうつなぐかは大きな課題だ。桐生再生は市内の山間部で電動バスを運行、交通網の穴を埋める取り組みを始めた。2~3キロのルートを日替わりで設定し、平日に6回程度往復している。

 電動バスが集落周辺の交通網を支え、路線バスなど主要な公共交通は市街地や都市間を中心に運行する。こうした役割分担ができれば、それぞれの経営効率が高まり、公共交通網全体の維持につながるという戦略だ。

三角形の屋根が工場のシンボル。ワイン倉庫に再生、活用されている=群馬県桐生市
三角形の屋根が工場のシンボル。ワイン倉庫に再生、活用されている=群馬県桐生市

 

 ▽住民のつながり深める場

 「コミュニケーションのツールにもなることが分かった」。電動バスの開発に携わる天谷賢児・群馬大大学院理工学府教授は話す。小さな車内に乗り込んだ人たちが向かい合うと自然に会話が始まる。住民のつながりを深める場になるという。

 電動バスは普通免許で運転ができる。スピードは出ないため安全性も高まる。「住民の手で住民の足を守る手段になる」と、桐生再生の清水宏康社長は指摘する。桐生市では自治会が運行に携わる計画が進められている。

 電動バスに関心を寄せる地域は増えている。運行のノウハウや計画づくりを伝えようと、清水社長は各地を歩く。「行政がすべて担うことは大変。市民参加で地域を守ることができれば」と、意欲を燃やしている。(共同通信 伊藤祐三)

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