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「ボクサーと減量」

2018.3.7 10:00 共同通信
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2回TKO負けし、リングを後にする山中慎介選手=両国国技館
2回TKO負けし、リングを後にする山中慎介選手=両国国技館

 3月1日、東京・両国国技館で行われた世界ボクシング評議会(WBC)バンタム級タイトルマッチ12回戦は、王者のルイス・ネリ選手(メキシコ)が、前日計量で制限体重(53・5キロ)を大幅にオーバーし、勝っても王座は空位、挑戦者の前王者・山中慎介選手(帝拳)が勝てば王座奪取という異例の状況で試合開始のゴングが鳴った。

 結果は当日計量で57・5キロと、ほぼ2階級上の体重でリングに上がったネリ選手が2回TKO勝ち。山中選手は、引退を表明した。

 両者は昨年8月に対戦。この試合で日本タイ記録となる13連続防衛がかかっていた山中選手は、4回TKOで敗れ王座から陥落した。しかし、ネリ選手が試合後のドーピング検査で陽性反応を示したことが判明。WBCが山中選手との再戦を指示していた。

 ボクシングは、前日計量にパスすれば飲食は自由なので、試合当日はリミットより重い体重でリングに上がりパンチを交えることが常識になっている。しかし、両者が制限体重に一度落とすというルールの下で、公平性を保っている。

 ボクサーとしては恥ずべき減量失敗にも、悪びれることなくリングに登場したネリ選手には、国技館に足を運んだファンから非難の声が上がった。

 進退をかけた山中選手の晴れ舞台を汚した罪は重く、WBCはネリ選手の無期限資格停止を発表した。

 バンタム級は軽量級の中でも選手層が厚く、昔から注目度の高い階級である。日本選手ではファイティング原田さん、辰吉丈一郎さん、薬師寺保栄さん、長谷川穂積さん、そして山中選手らがこのクラスでスリリングなファイトを披露し、ボクシング人気を支えてきた。

 「黄金のバンタム」という言葉がある。これは、バンタム級そのものを示すのではなく、1960年代にファイティング原田さんに敗れるまで、この階級で無敵を誇ったブラジルの英雄、エデル・ジョフレ氏の代名詞である。

 山中選手も憧れた人気ボクサーの辰吉さんは、バンタム級にとても愛着を持っていた。太りやすい体質で、試合と試合の間には70キロ近くまで体重が増えると本人から聞いたことがある。

 過酷な減量に耐えることも、ボクサーというストイックな〝商売〟の宿命である。前日計量の直後に口にしたスッポンのスープに、みるみる紅潮する辰吉さんの顔を今でも思い出す。

 減量に耐えられないのなら、潔く階級を上げればいい。「神の左」と呼ばれたハードパンチでKOの山を築き、名ボクサーとして語り継がれる山中選手の最後の試合が、対戦相手の怠慢で台無しにされてしまった。残念である。 (47NEWS編集部 宍戸博昭)