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ロシアの「裏切り者」にまた毒物使用か

2018.3.6 12:46 共同通信
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2006年8月9日、法廷外のモニターに映ったセルゲイ・スクリパリ被告(左)(AP=共同)
2006年8月9日、法廷外のモニターに映ったセルゲイ・スクリパリ被告(左)(AP=共同)

 英南部ソールズベリーのショッピングセンターで4日午後、ベンチに座った男女が突然苦しみだす様子が目撃された。女性は意識なく男性にもたれかかり、男性の方は手を上に上げ奇妙な動きをしていたという。2人はすぐに病院に搬送されたが、中毒症状を示し意識不明の重体。単なる急病人の搬送と思われたが、ほどなく現場は規制線が張られ立ち入り禁止に。化学防護服に身を包んだ作業員が到着し、ものものしい様子で遺留物を探すなど、現場はさながら日本の地下鉄サリン事件を思わせる様相となった。ロシアと英国の主要メディアが伝えた。

 英国の警察当局が化学物質や放射性物質汚染に対応する極度の警戒態勢をとったのは、病院に搬送されたのがロシア軍の情報機関である参謀本部情報総局(GRU)に所属していた元情報機関員のセルゲイ・スクリパリ氏(66)だったからだ。33歳の女性が一緒にいたがスクリパリ氏との関係は不明。 

 英国在住の元ロシア情報機関員を巡っては06年11月、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後身、連邦保安局(FSB)元職員のアレクサンドル・リトビネンコ氏がロンドンで死亡する事件があった。後に、放射性物質ポロニウム210による毒殺だったことが判明。英司法当局は同氏とロンドンで接触したKGBのルゴボイ元職員らを容疑者と断定。英政府は身柄の引き渡しを求めたが、ロシアは拒否。英政府の独立調査委員会はプーチン大統領が殺害を承認した可能性が高いとする報告書を発表した。

 スクリパリ氏が倒れた現場での厳戒態勢には、こうした伏線があり、英当局はリトビネンコ氏同様、スクリパリ氏にも何らかの毒物が用いられた可能性を疑っている。英紙デイリー・テレグラフ(電子版)は、使われた薬物はモルヒネの100倍以上の鎮痛効果があるとされる麻薬フェンタニルである可能性があると伝えた。フェンタニルは大量に投与すると、呼吸が抑制され死に至る。02年のモスクワ劇場占拠事件で、立てこもった武装勢力鎮圧のために使われたガスもフェンタニルの誘導体だったとされている。

 リトビネンコ氏とスクリパリ氏には共通点がある。ともに英国の情報機関と協力していたことだ。リトビネンコ氏はFSB職員だった際に政商暗殺計画を上司から指示されたことを会見で暴露。当時のFSBトップだったプーチン大統領に公然と反旗を翻した。英国亡命後は、プーチン政権への批判を続け英情報機関との協力関係も明らかになった。

 スクリパリ氏もロシアの元情報機関員でありながら、約10万ドル(約1050万円)の提供の見返りに、欧州で活動するロシア情報機関員の機密情報を英国に流したとされ「英国のスパイ」としてロシアで06年に禁錮13年の有罪判決を受け服役。10年に、後にロシアの美人スパイとして有名となるアンナ・チャップマン氏らロシア情報機関員との交換合意により米国に引き渡され、その後、英国で暮らしていた。ロシア情報機関から見れば、ともに「裏切り者」。リトビネンコ氏同様にスクリパリ氏も毒殺の試みがあったと疑うのは当然だろう。スクリパリ氏が最近、自身に何らかの生命の危険があると警察に訴えていたとの報道もある。

 一方、リトビネンコ氏と違い、スクリパリ氏は英移住後、目立つような反ロシア活動には参画せず、静かに暮らしていたとされることから、毒殺未遂だとしても、なぜこの時期に実行しなくてはならなかったのか、謎は残る。 (47NEWS編集部 太田清)