暑さに喝(カツ)、夏限定のからし寄せ豆腐 【GOHAN特製原稿】

2010年07月05日
共同通信共同通信
夏限定のからし寄せ豆腐
夏限定のからし寄せ豆腐

夏になると、スーパーで「からし豆腐」がひと際目立つ。「からし豆腐」は一般に、ドーム型の木綿豆腐のてっぺんに青のりがつき、豆腐の真ん中に黄色いからしがたっぷり入っている。暑さに勝ち、活力が出る─と、昔から岐阜で愛されている夏季限定の豆腐だ。

芭蕉「奥の細道」結びの地、水の都で知られる岐阜県大垣市。JR大垣駅近くに、おいしい地下水で昔ながらの手作り豆腐にこだわる「安田屋」がある。店頭でデザート風のからし豆腐があることを知った。早速「からし寄せ豆腐」(230円)と豆乳(100円)を購入して自宅で味わった。

「からし寄せ豆腐」は5代目社長・安福弘さん(54)手作りの逸品。一番豆腐の白い寄せ豆腐に自家製洋がらしを入れ、青のりをトッピング。アイスクリームのカップのような容器に入っている。厳選した大粒の揖斐川町産大豆「フクヨタカ」を地下水に10~12時間浸し、最高級の天然にがりを使う。洋がらしにはウコンなどを混ぜているという。豆腐の白さは、豆本来の白さに加え、着色料や添加物を一切使っていないからだとか。

大豆の香りがとてもいい。まず豆腐のところだけスプーンですくい、何もつけずに食べてみた。大豆の濃厚な甘さ。しっとりなめらかで、ぷるんぷるん。口当たりもよく、プリンのような味わいだ。さらに真ん中をすくうと、黄色いからしが出てきた。大豆の甘さが絶妙に絡み合う。

今度はネギとカツオの削りぶしをのせ、しょう油をかけて食べた。普通の木綿豆腐とは違って柔らかく、しょう油の味が染み込み、薬味も効いてうまい。豆乳も飲んでみた。冷たく甘い濃厚な大豆の味わい。これは何杯でもいけそうだ。

安田屋は江戸後期から続く老舗。戦後から、かまぼこ型のからし豆腐を毎年、夏季限定で販売し、人気を集めていた。安福さんは大学卒業後、京都で1年修業して家業を継いだ。しかし、家族の病気で、3倍手間と時間がかかるからし豆腐は店に出せない年が続いた。普通の豆腐づくりをこなすのが精いっぱいの毎日。それでも、よりおいしい豆腐を出したい、常連客の要望に応えたいとの思いから試作に試作を重ね、「からし寄せ豆腐」を完成させた。それが7年前のこと。

「豆腐の良しあしは、寄せで決まる」と、豆腐づくりに決して妥協しない安福さん。天然にがりを入れると、すぐに固まり始めるので10~20分が勝負という。代々受け継がれた厳選素材による昔ながらの豆腐を、一番おいしい寄せ豆腐でつくるぜいたくな逸品だ。

昔から市民の命をつないできた井戸水が、店先と奥でくみ上げられている。戦中、空襲で街は焼けたが、「この井戸水のおかげで命と店が救われた」と安福さん。その手と井戸水でつくられる豆腐は、大垣市民の夏の元気の源でもある。“おいしい大垣ぶらりウオーク”としゃれ込んで、豆腐を買いに立ち寄ってみてはいかが!

 

 

アマデウス@岐阜 (岐阜新聞)