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地下鉄でつながる思い

2018.1.19 10:02 共同通信
東京メトロ銀座線
東京メトロ銀座線

 昨年末、47NEWS編集部でニュースの更新をしていてある記事が目に留まった。

 「LINE活用、妊婦に座席 東京メトロで実証実験」 (2017年12月11日)

 座りたい妊娠中の女性と、席を譲りたい乗客を無料通信アプリLINE(ライン)を介してつなぎ、マッチングする実証実験が、東京メトロ銀座線で始まったことを知らせるものだった。

 普段、地下鉄を利用している私にとって、乗車中のマナーや他者への思いやりについてはいつも気になっていた。妊娠中の女性はもちろん、乳幼児を連れた家族や高齢者など席を必要としている人が席に着けず困っている状況にしばしば出くわすからだ。こうしたとき「席を譲ってあげてください」と周囲に働きかける勇気がない自分がふがいない。

 昨年こんなことがあった。蒸し蒸しした初秋の朝だった。優先席の近くにいた女性が、孫とみられる3、4歳の男の子を必死に抱きかかえながら立っていた。満員電車の中で、子どもを1人で立たせておくのは危ないが、長時間抱っこするには重すぎる年頃だ。席を譲ってあげる人は現れず、女性が気の毒だった。次の駅で乗客が車内にさらに流れ込んでくるのに驚いた男児が思わず声を上げると、私の目の前の優先席に座っていた人が「うるさい」と吐き捨て、2人をにらみつけた。

 いくつかの駅を過ぎ、悪態をついた人が下車したので、女性に声をかけると「これから遊びに行くのに申し訳ないです」と言ってようやく席に着けた。2人は次の駅で降りていった。

 実証実験の記事を読んでいて、上の出来事を思い出した。それでももやもやしたものがぬぐえなかったのは、席を譲るというちょっとした行為なのに、LINEを持ち出すのは大げさすぎないかと思ったからだ。先日、東京メトロの担当者に話を聞いて、なるほどと思い直した。

 同社によると、5日間行われた実験に参加したのは妊娠中の女性約40人、サポーターとして事前登録した乗客が約270人。マッチングがうまくいったケースは約70件に上り、率にして9割近くとなかなかの成績だったようだ。

 参加者からは次のような声が寄せられたという。

 「善意ある人がたくさんいることが分かりうれしかった」(妊娠中の女性)

 「座りたいという意思表示がしやすかった」(別の女性)

 「断られないことが分かっているので、安心して声をかけることができた」(サポーターの乗客)

 「通知によって席を必要としている人の存在にすぐ気付くことができた」(別の乗客)

 他者への無関心が原因だと思っていたが、それだけではなかったのだ。断られるのが嫌で声をかけられない、スマホなどを操作していて周囲の状況に気付かない―。そうした場合、LINEというツールを使って、互いの心情を「見える化」するのは一つの手なのかもしれない。

 「お・も・て・な・し」という奇妙な身振りで誘致した東京五輪パラリンピックまであと少し。対価を伴う場面では過剰と言えるほどのサービスが受けられる日本だが、ちょっとした日常で、見ず知らずの人に思いをいたすことはどれだけできているだろうか(自戒を込めて)。そんなことも考えさせられた。

 ところで、東京メトロは実証実験の結果を分析中で、実用化のめどはたっていないという。 (47NEWS編集部 松本鉄兵)

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