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「自分を信じた」大橋が「金」 昼夜逆転、波乱の競泳序盤戦

2021.7.25 17:41 共同通信
女子400㍍個人メドレーで優勝し、ガッツポーズする大橋悠依=東京アクアティクスセンター
女子400㍍個人メドレーで優勝し、ガッツポーズする大橋悠依=東京アクアティクスセンター
 大橋悠依はレース後、こう言った。「自分を信じて泳いだ」。いい言葉だ。競泳女子400メートル個人メドレーで大橋が今大会の日本競泳に初の金メダルをもたらした。会心の試合運びである。2種目目の背泳ぎでトップと並び、強化してきた次の平泳ぎで抜け出す。そして最後のクロールはターン後にすぐギアを上げ、自由形が得意な米国勢ら後続を引き離した。4分32秒08は今シーズンの世界最高記録である。
 ▽世界一のオールラウンダー
 決して金メダル候補ではなかった。今季の世界ランキングでは、銀メダルを獲得したウェイアントら米国勢が4位までを占め、その後に前回チャンピオンの「鉄の女」ホッスー(ハンガリー)。大橋はその下だ。1カ国2名のエントリーでも表彰台の外の4番手だった。
 個人メドレーは武器になる特別な種目を持つ選手が強い場合も、大橋のように4種目に穴の少ない選手が強い場合もある。大橋は名実ともに世界一のオールラウンダーの称号を得たと言えるだろう。
 ここに至る道は平たんではなかった。2015年の日本選手権では40位で予選落ちし、引退が頭をよぎった。貧血や自信喪失…。総務として今大会のチームスタッフになっている村松さやかさんに心を支えられ、プールを離れなかった。その後、世界選手権でメダルを獲得するまで回復したが、注目が高まり、逆に精神的に大きな負担になった。
 彼女は自らに問い直した。「なぜ私は泳ぐの?」「私は将来どうなりたいの?」。答えは、自らを信じることだった。技術面は平井伯昌コーチ(代表チーム監督)が支えた。そして「いろいろなことを経験し、私はより大人になった」と言った。これ以外にも多くの人たちの支えがあった。選考会で代表を逃していった仲間の思いも背負っていたはずだ。
 25歳。女子競泳選手として若くはない。出身地、滋賀県彦根市のマスコット「ひこにゃん」の付いたソックスを勝負の時には履くそうだ。お茶目な一面を持つとはいえ、「成熟」の印象の方が強い。そのスイマーの目は、マスクを着けた表彰台の中央で潤んで見えた。遠かった夢が、最高の舞台で実を結んだ。
 ▽瀬戸大也「読み違い」の失態
 大橋が金メダルを獲得したことで、責任は薄れたが、それは大失態と言える。男子400メートル個人メドレーの瀬戸大也が、競技初日の前夜の予選で、全体9位で予選落ちした。今季の世界ランク1位だったのに、最後のクロールを「流して」後続に次々抜かれ、決勝に進む8位選手に0秒32及ばなかった。
 瀬戸は「読み違い」と言った。前回リオデジャネイロ大会は予選を目いっぱい行って体力を使い、決勝はタイムを落として銅メダルだった反省がある。余力を残したい、との考えは理解できなくはない。
 しかし、リオと東京ではスケジュールが違う。リオは午前予選、夜決勝。体力回復の時間は限られた。だが、東京は夜に予選、決勝は翌日午前。競泳選手は午前予選、当日夜に決勝が通常の試合パターンで、予選が夜であっても体は動く。しかし、瀬戸は途中でギアを上げ得なかった。水の抵抗と戦う競泳は急にはスピードアップがかなわない。先を見て足元がおろそかになった。慢心、油断が背景になかっただろうか。
 決勝進出ラインはリオより3秒以上上がっていた。そして、午前の決勝。金メダルのタイムは4分9秒42と予選と同じレベル。瀬戸が4月の日本選手権で出したタイムを再現していたら金メダルだった。昼夜逆転の大会スケジュールが描いた悲劇でもある。
 競泳は個人競技だが、チームスポーツの一面も強い。先陣を切る選手の出来不出来が全体のムードに響く。1996年アトランタ五輪は千葉すずが崩れ、期待の大きかった若手女子陣がメダルを逃した。続くシドニーは伏兵、田島寧子が女子400メートル個人メドレーでいきなり銀メダルをつかみチームに弾みを付けている。北島康介や、リオの萩野公介も役割を果たした。その意味で瀬戸は、金メダル獲得で日本競泳陣を鼓舞する役割を担っていた。続く大橋は「怖い」と言いながら、しっかり予選を3位でクリアして決勝での金メダルに突き進んで助かったが…。
 昼夜逆転の影響か、男子400メートル自由形でも18歳のチュニジアの伏兵がオーストラリア、米国の強豪を破る番狂わせを演じた。大橋の種目の絶対的女王、ホッスーがメダルを逃す波乱もあった。東京アクアティクスセンターのプールは波高し、である。(共同通信・小沢剛)