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いろんな国の選手を見たい 内向きな日本人の関心 森達也(映画監督) リレー評論「解読オリンピック」

2021.8.5 11:00 共同通信
森達也さん
森達也さん

 

 まだ東京への五輪招致が決まる前、トルコのイスタンブールも手を挙げていることを知って、イスラム圏としては初の開催になるトルコで開催すべきじゃないか、と思った記憶がある。つまり東京開催については消極的な反対。というか、自国開催にこれほどこだわる理由がわからない。だから東京に決定した瞬間に歓喜して号泣する人たちの映像をニュースで見ながら、不思議な気分になったことを思い出す。

 五輪そのものは決して嫌いではない。特に多くの国や民族や宗教が入り乱れる閉会式が大好きだ。イスラエルとアラブの国の選手がハグしている光景を見た記憶がある。北朝鮮と韓国の選手が手をつないでいる光景も覚えている。でもアトランタ大会あたりから、閉会式の景色が変わってきた。ただし変わったのは閉会式そのものではなく、日本のテレビ画面に映る光景だ。外国人選手が圧倒的に減った。カメラが追いかけるのは話題の日本人選手ばかりだ。

 57年前の東京五輪。菅義偉首相が国会でいきなり思い出を滔々(とうとう)と語り始めたアベベ選手やヘーシンク選手だけではなく、女子体操のチャスラフスカ選手など、多くの外国人選手が話題になった。でも今回の五輪で、これほどに注目される外国人選手はいるだろうか。あなたは名前を挙げることができるだろうか。明らかに日本人の関心がドメスティック(内向き)になっている。だからこそ開会式の薄っぺらさが際立った。歌舞伎や木遣(きや)りという伝統のステレオタイプにジェンダーや多様性などの言葉を貼り付け、アニメやゲームのパウダーを振っただけ。寄せ集めだ。致命的に世界観がない。

 前半は柔道を中心に見た。実は中学高校時代は柔道部。こう見えて黒帯だ。ただし高校最後の地区大会は髪が長すぎるとの理由で試合に出してもらえなかった。耳が変形することが嫌で寝技の稽古はほとんどしない。そのレベルだ。でも試合の駆け引きや締め技の恐ろしさは知っている(本当に一瞬で気を失う)。日本人選手は絶好調。金メダルの数は断トツでぶっちぎり。アナウンサーも解説者も大喜び。でも僕は微妙だ。文字通りのお家芸なのだから強いのは当たり前。もっといろんな国の選手の笑顔を見たい。

 7月31日の混合団体。僕は難民選手団を応援した。金メダルのフランスはもちろん銅メダルのドイツとイスラエルの選手たちもうれしそう。ところが銀メダルの日本人選手たちはお通夜のよう。だから思う。メダルを取っても取れなくても、選手たちが胸を張れる国になってほしい。色とか数とか国とか名誉はどうでもよい。一人一人をアップで見る。その意味でテレビ観戦はよかったかも。もちろん、感染最多となった新型コロナについてのニュースをしっかりとチェックしながら。
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 もり・たつや 1956年広島県生まれ。監督作に「A」「FAKE」「i 新聞記者ドキュメント」など。