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「モン族」系米国人に初の「金」 初出場リー、体操界スターの棄権で快挙

2021.8.3 12:41 共同通信
女子個人総合で金メダルを獲得したスニーサ・リー=有明体操競技場
女子個人総合で金メダルを獲得したスニーサ・リー=有明体操競技場
 五輪体操女子初の5冠が有力視されていた米体操界のスター、シモーン・バイルス(24)が「心の健康」を理由に突然棄権を表明、衝撃が広がった7月29日の個人総合決勝。金メダルを獲得したのは米国代表の最年少のスニーサ・リー(18)だった。東南アジアの少数民族「モン族」系米国人として初の偉業で、人種差別が根深い米国社会でも大きな意味を持つ快挙となった。
 ▽突然のプレッシャー
 「現実に起きたことと思えない。すごくうれしい」。リーは涙を浮かべ、両親やコーチへの感謝の言葉を口にした。ここ数年は不運続き。2019年には、二人三脚で代表入りを目指してきた父親がはしごから落ちて下半身不随に。新型コロナウイルス禍では、目標としていた東京五輪も延期となり、親戚2人が相次いで亡くなった。
 通っていたジムも3カ月閉鎖、練習もできず。再開後の昨年6月には自らも足を骨折した。「心が折れそうになり、何度も諦めようと思った」
 五輪は初出場だが、バイルスの棄権で突然メダルのプレッシャーがかかった。「ギアを入れ替える必要があった。(東京に来た時はバイルスに次ぐ)2番目の選手だったから」。
 試合前、地元の米中西部ミネソタ州セントポールにいる父親を電話で起こし、助言を求めた。父親は「自信を持って全力を尽くせ」と力づけた。
 ▽民族の誇り
 「私たちの誇りだ」。セントポールでは金メダル獲得の瞬間、早朝から大型モニターの前に集まった家族や親戚、友人ら数百人が喜びを爆発させた。地元市長は翌日をモン族系初の金メダリストを祝う日とすると宣言した。
 モン族は、中国南部やベトナムなど東南アジアの山岳地帯で暮らす少数民族。ベトナム戦争中、ラオスで米軍と中央情報局(CIA)の反共産主義工作に雇われた。
 しかし、米軍の撤退後、ラオスで社会主義政権が誕生した。迫害を受け、多くがタイに政治亡命。1970年代末から欧米などに逃れた。
 米国では現在ミネソタ州のほか、中西部ウィスコンシン州、西部カリフォルニア州などで約30万人が暮らす。米映画監督クリント・イーストウッドは映画「グラン・トリノ」(2008年)で、朝鮮戦争で負った罪の意識に苦しむポーランド系の元米兵と、モン族の少年との触れ合いを描いた。
 リーの両親も幼い時にラオスから逃れてきた移民。体操は「金がかかるスポーツ」として知られるが、父親は貧しい生活の中で、6人の子どものうち運動神経抜群だったリーのために自宅の庭に木製の平均台を作って練習をさせた。その後もリーが競技を続けることができたのは、モン族系住民らが資金を集め、支え続けたためだったという。
 「このコミュニティーで、あの子を知らない人は1人もいない。あの子はわれわれの希望だから」。住民が地元テレビに誇らしげに話した。
 ▽和解の一助に
 金メダルには、米国社会で深刻化する人種対立の和解の一助になってほしいとの願いも広がる。
 セントポールと隣接するミネアポリスでは2000年5月、黒人男性ジョージ・フロイドさんの暴行死事件が発生、全米に黒人差別解消を訴える「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)」運動が広がった。
 事件では、白人の元警官が州法の第2級殺人などの罪で禁錮刑を受けたが、現場にいた元警官4人の1人がモン族系だったため、モン族系住民が微妙な立場に立たされている。
 全米では新型コロナ感染拡大の中、アジア系住民への憎悪犯罪(ヘイトクライム)が続発。米メディアによると、モン族系の店が破壊される被害も起きており、モン族系住民の間では不安が広がっているという。
 日本ではリーのメダル獲得は、体操界のスター棄権という大ニュースの陰に隠れてしまった感があるが、CNNテレビなど米メディアは「米国の誇り」と大きく報じている。(共同通信・浜口健)