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125年不変の規格が日本に追い風 陸上110障害、一躍メダル争い

2021.8.3 12:30 共同通信
陸上日本選手権の男子110メートル障害決勝で13秒06の日本新をマークし、五輪代表入りを決めた泉谷駿介=ヤンマースタジアム長居、2021年6月27日撮影
陸上日本選手権の男子110メートル障害決勝で13秒06の日本新をマークし、五輪代表入りを決めた泉谷駿介=ヤンマースタジアム長居、2021年6月27日撮影
 世界とは隔たりがあった陸上男子110メートル障害で、日本勢がメダル争いに割って入る勢いだ。21歳の泉谷駿介が世界ランキング3位、25歳の金井大旺が11位と急成長。五輪、世界選手権で過去に決勝進出もない種目が、一躍メダルを狙える有望種目になったのだ。
 ▽目を見張る躍進
 ここ3~4年の躍進は目を見張るばかりだ。18年に金井が13秒36で14年ぶりに日本記録を更新。翌年はもう一人の代表、高山峻野が13秒25へ引き上げ、昨季はコロナ禍とはいえ世界ランキングで7位の金井(13秒27)を筆頭に、15位タイまでに5人がランクインする盛況だった。
 五輪イヤーの今季は、4月に金井が13秒16の日本記録を樹立すると、泉谷が6月の日本選手権を13秒06の衝撃的な記録で制した。前回リオデジャネイロ五輪なら優勝者の13秒05に迫る記録で、19年世界選手権金メダリストの13秒10を上回る。
 地殻変動を起こしたのは金井だった。函館ラサール高時代にインターハイで5位に入り、ハードル伝統校の法大に進んでトップレベルの理論と技術を吸収した。
 ▽世界基準を実現
 急成長につながったのは、世界基準の「スタートから1台目まで7歩」をあっさり実現したこと。大半の日本選手は1台目まで(13・72メートル)を8歩で走っていたが、これだと踏み切りがハードルに近くなってスピードが上がらず、着地後もスピーディーに疾走へ移れない。ストライドを伸ばして強い踏切をするため筋力強化した結果、パワーアップして俊敏な動きに磨きがかかった。
 競り合いがあってこそ強くなれるとの信念から、4歳若い泉谷にも「1台目まで7歩」を伝授したところ、身体能力の高い泉谷はたちまちリズムをつかんだ。身長176センチの泉谷は走り幅跳び7メートル92、三段跳びでは16メートル08を跳ぶばねの持ち主。スプリント能力も高く、100メートルを10秒37で走る。ハードリング技術に優れた179センチの金井も10秒41と遜色ない。
 ▽第1回五輪から実施
 急速なレベルアップの背景にはこの種目ならではの事情もある。1896年の第1回アテネ五輪(優勝記録は17秒6)から実施されているが、1台目までの距離、10台のハードルの高さ(106・7センチ)、3歩で走るハードル間の距離(9・14メートル)は不変。1世紀前の100メートルの世界記録は10秒6だったが、現在はウサイン・ボルト(ジャマイカ)の9秒58へ1秒も短縮されている。当然ストライドが伸びているので、スピードを生かしたハードリングをしようとすれば、インターバルで歩幅が詰まってしまうのだ。
 女子で依田郁子が5位に入賞した57年前の東京五輪の種目は80メートル障害(高さ76・2センチで8台)だったが、女子の能力向上にともなって69年から100メートル障害(高さ83・8センチで10台、ハードル間は50センチ伸ばして8・5メートル)に変更されている。
 ▽体格も有利に
 長身選手ぞろいと思われがちだが、57年前の東京五輪を制したヘイズ・ジョーンズ(米国)は身長178センチ。近年でも、96年アトランタ五輪金メダリストのアレン・ジョンソン(米国)は178センチで、93年に12秒91の世界記録を樹立したコリン・ジャクソン(英国)も182センチだった。スプリント能力と高い技術を身につけた日本勢にとっては体格の上でも、1世紀以上前から変わらない規定が逆に有利な条件になっているのだ。
 東京大会で金メダル最有力候補のグラント・ホロウェイ(米国)は190センチと大型だが、プロフットボール界から誘いを受けるほどの圧倒的な身体能力を持つ。俊敏でミスのないハードリング技術は群を抜いている。ジャマイカ勢も強いが、前回優勝者で今季ランキング2位のオマール・マクレオド(ジャマイカ)は国内予選で敗退した。
 2004年アテネ五輪でマークした13秒39の日本記録を金井に更新された谷川聡筑波大准教授は、泉谷の記録を「100メートルなら9秒8台に相当する」と評価。日本勢は世界大会での実績はないものの「ハードルにぶつけることなく序盤をリズムよく滑り出せば、メダルはともかく決勝には確実に誰かが残るでしょう」と太鼓判を押した。(スポーツエディター・船原勝英)