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アラスカに初の金、世紀を超えた栄冠も プールに世界の意外性

2021.8.1 13:00 共同通信
女子100㍍平泳ぎで優勝し、スタンドに手を振る米国のリディア・ジャコビー=東京アクアティクスセンター
女子100㍍平泳ぎで優勝し、スタンドに手を振る米国のリディア・ジャコビー=東京アクアティクスセンター
 五輪は世界の「大運動会」。日本選手の成績に一喜一憂しがちだが、時には世界に目を向けよう。競技が終わった競泳の金メダルから飛びきりのストーリーをお伝えする。113年ぶりの復活、極北の地に金メダル―。プールには世界の意外性が満ちていた。
 ▽氷の湖で練習?
 「彼女の練習って、氷の湖を泳ぐことよ」。チームメートにこんな風にからかわれた米国の17歳、が女子100メートル平泳ぎ決勝で2連覇を狙ったリリー・キング(米国)らを破る大番狂わせを演じた。
 世界的には無名スイマー。なにしろ米国49番目、北端の州、アラスカ出身だ。州都アンカレジから車で2時間半もかかる人口約2700人の小さな町、セウォードで育った。ホエールウオッチングの船長を務める両親が「水に落ちても溺れない」ことを願って6歳から町のスイミングクラブに通わせた。決して競泳選手に育ってほしいわけでも、五輪選手や、ましてメダリストになってと望んだわけでもない。夏は子どもたちがキャンプし、バンドを組んで州内のお祭りに参加するような、伸びやかな少女時代を過ごした。
 12歳で初めて州の記録を破ったジャコビーは、その後成長し東京五輪の代表選考会への出場権をつかんだ。だがそれは2020年のことで、国を代表するレベルなど遠い夢だった。ところが新型コロナで五輪が1年延期された。彼女の地元クラブもコロナで閉鎖され、アンカレジの大きなクラブでトレーニングを積んだ。それでもファミリーの夢は2024年のパリ五輪だった。ところが―。
 1年後、彼女は急成長し、代表選考会で2枚しかない切符をつかんだ。アラスカから初の競泳米国代表選手の誕生である。五輪決勝レースに臨んでも「メダルは欲しかった。でも金メダルだなんて思ってもいなかった」。ところが、トップでゴール板をたたいたのは雪と氷の地から来た伏兵だった。「電光掲示板を見上げた。最高だった」
 地元の高校に通うジャコビーは来年、強豪テキサス大に進学する予定だ。しかし、ルーツのアラスカを決して忘れないと言う。「小さなときからずっと州を代表してきた。そしてアラスカの人々がずっと私を支えてくれていたから」
 ▽113年ぶりの金
 男子800メートルリレーを制したのは英国。この種目が採用された1908年ロンドン五輪優勝以来113年ぶりの栄冠だった。今でこそ競泳の最終種目は、男女とも400メートルメドレーリレーだが、以前は競泳のリレーで最も歴史のあるこの種目がフィナーレを飾っていた。一番速い自由形(クロール)の総合力こそ「水泳の国力」の証明だったからだ。
 英国といえばサッカー、ラグビーの母国であり、現世界陸連会長のセバスチャン・コーに代表される陸上の国でもある。競泳では平泳ぎに好選手が出ることはあっても、総合力では劣った。だが2012年ロンドン五輪を契機にした強化が自国大会後に花を咲かせてきた。前回リオデジャネイロ大会は2位、世界選手権でも15、17年を制した。
 とはいえ順風ではなかった。二枚看板の1人、トム・ディーンが昨年9月に続いて今年1月、新型コロナウイルスに感染。10日間入院し、その後も隔離が続いた。結局、冬場は7週間もまともにトレーニングできなかった。東京までの12時間のフライトが「100万マイル(約160万キロ)にも感じていた」と、五輪までの距離感を表現した。それでももう1人のエース、ダンカン・スコットの支えを受けて回復に努めた。互いを励まし合いながら週に9~10セッションのハードワークをこなし、代表選考会に間に合わせた。
 2人は五輪の選手村では同室。「僕らはまずプールの外で友達になり、それから選手になった」と仲の良さを誇る。これもリラックスできた理由だろう。
 第1泳者を務めたディーンが出遅れたが、第2泳者のジェームズ・ガイがトップを奪い、アンカーのスコットが圧勝のゴール。ガイは涙をぬぐい、ロイター通信は「涙と勝利 英国113年の高み」と報じた。
 6分58秒58の優勝タイムは世界記録でも五輪記録でもない。だが、2009年につくられた世界記録にわずか0秒03差、08年北京大会での五輪記録にも100分の2秒差。この二つとも「水着のドーピング」と酷評された高速水着で出された記録だけに、今回は記録面の価値も付随した。
 対照的に米国は4位に終わり、ボイコットした1980年モスクワ大会を除いて1908年から続くメダル獲得の歴史が途絶えた。かつての「水泳ニッポン」を象徴した種目でもあるが、前回銅メダルの日本は決勝にも進めなかった。伝統種目ゆえ、栄枯盛衰が際立った。(共同通信・小沢剛)