メニュー 閉じる メニュー

足りなかった「遊び心」   リーダー不在、個々は充実  コシノジュンコ(ファッションデザイナー) リレー評論「解読オリンピック」

2021.8.4 11:00 共同通信

 

コシノジュンコさん
コシノジュンコさん

 アスリートの皆さんの活躍は素晴らしい。卓球女子シングルス銅メダルの伊藤美誠(いとう・みま)選手のあの悔しそうな顔! メダルを取って悔しそうにする姿が最高に印象的でした。「メダルが取れたからいい」じゃなく、もっと高いところを見ている。


 良い位置に付けました。トップに立つと守りに入ってしまう人が多いけど、彼女はメダルが取れた上、さらに挑戦できる。しかもまだ20歳。次のパリ五輪が楽しみです。


 気が早いですが、パリ五輪を想像すると、期待とともに複雑な気持ちになります。フランスはモードとアートの国。その歴史と伝統を全面に打ち出すでしょう。日本にもフランスのアーティストが羨望(せんぼう)のまなざしを送る、誇るべき歴史と伝統がある。東京五輪では、それが存分に発揮できていないのはなぜか…と考えさせられます。


 デザインという視点で、今回「金メダルの仕事」と感じたのは日本選手団公式スポーツウエア。「サンライズレッド」と呼ばれる赤が鮮やかで、日本古来の色合わせである「かさねの色目」という技法を生かしたグラデーションも美しい。Tシャツのほか、靴など小物までトータルにデザインされ、男女問わず選手の皆さんに似合っていて、存在感抜群でした。


 聖火リレー用のトーチもすてきです。デザイナーの吉岡徳仁(よしおか・とくじん)さんによるもので、上から見ると桜の花の形。しかも東日本大震災の仮設住宅で使っていたアルミの廃材を一部再利用しているそうです。


 残念なのは開会式です。特にオープニングパフォーマンスの散漫さ。スタジオ撮影された映像を見ているかのようでした。コンセプトが明確でないから、日本の美の本質とも言える「引き算」ができず、決断できるまとめ役も不在だったのでしょう。総花的で面白みのないものになってしまった。「無観客で良かった」と思ったほどです。


 「新型コロナウイルス禍だから」は言い訳になりません。なぜなら世界中のアスリートは、コロナ感染の危険を冒して集まってくれ、感動を与えてくれている。外国での開催では望めない、ほぼ全ての競技をテレビで見られるという恩恵に私たちはあずかれた。改めて日本で開催されたことを感謝します。

 「スポーツ」の語源はラテン語の「遊ぶ」などに由来するそうです。開会式は圧倒的に「遊び心」が足りなかった。サンライズレッドのウエアや、開いた花のようにも炎のようにも見える聖火台、聖火リレーのトーチなど、一つ一つは素晴らしい。アスリートも素晴らしい。でも開会式のようなイベントを、大きな視点でまとめるリーダーがいない。まるで日本社会そのもの。そのことに気付く機会に、今回の五輪はなったと思います。
   ×   ×
 大阪府出身。ファッションデザイナー。パリ・コレクションをはじめ世界各地でショーを開催。文化功労者。今年5月にフランス政府からレジオン・ドヌール勲章シュバリエを受けた。