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「良き敗者」を解放してあげよう 逆境+重圧、消えたビッグネームたち

2021.7.31 16:49 共同通信
男子シングルス1次リーグで、韓国の許侊熙に敗れ決勝トーナメント進出を逃した桃田賢斗=武蔵野の森総合スポーツプラザ
男子シングルス1次リーグで、韓国の許侊熙に敗れ決勝トーナメント進出を逃した桃田賢斗=武蔵野の森総合スポーツプラザ
 史上最多を更新した日本勢の金メダルラッシュの陰で、予想外に早い段階で敗退した有力選手も相次いでいる。いずれも優勝候補に名前を挙げられていた大物選手たち。失敗を責める声も一部の報道やネット上で散見されるが、五輪ではごく一握りの勝者を除けば、大多数は敗者なのだ。彼や彼女たちは傷心をこらえてきちんと説明し、下を向くこともなかった。「グッド・ルーザー(良き敗者)」を、期待を背負った重圧から解放してあげよう。
 ▽言い訳せず、支援に感謝
 バドミントンの桃田賢斗、体操の内村航平、テニスの大坂なおみ。敗退した第一人者たちにはそれぞれ大きな試練があった。みんな、正面から敗戦を受け止めた。
 桃田には同情を禁じえない。前回リオデジャネイロ五輪は、不祥事による出場停止処分でチャンスを逸した。復活後は交通事故で大けがを負い、ことしに入って新型コロナウイルスに感染。そんな状況で世界ランキング1位として五輪に臨み、1次リーグでこれまで負けたことがない韓国の伏兵に敗れた。
 攻守のバランスが崩れていた。度重なるアクシデントによる実戦不足が持ち味を消していた。桃田は悲運を恨むことなく「自分の気持ちが引いていた。このコートに立つまでに、いろんな人に支えてもらった」と支援への感謝を忘れなかった。
 内村は連覇していた個人総合を故障により断念。種目別の鉄棒一本に絞った。その予選で予期せぬ落下。4度目の五輪は一瞬で終わった。「全部、自分のせいなので何も言い訳はない」と潔く、19歳の橋本大輝らの大活躍に「主役はもう彼らだった」と世代交代を認めた。
 大坂は精神面での不調で5月に全仏オープンを棄権。約2カ月ぶりの大会の3回戦でランク42位にストレート負けした。決まっていたテニスの試合日程を変更までして、開会式の聖火点火者に起用された。「大会の顔」に指名された責任もメンタルに影響を与えたのか。「確かに大きな重圧があった。悲しいが、ここに立つことができてうれしかった」
 ▽不運は嘆かず、友情を再確認
 逆境の中で結果は出なかった。そんな中でもスポーツで結ばれた友情を再確認することもある。
 バドミントン女子ダブルスの世界ランキング1位、福島由紀・広田彩花組は準々決勝で敗退した。広田が6月に右膝の靭帯(じんたい)を部分断裂する大けがを負っていた。手術は五輪後に延期。装具をつけて、痛みを押してのプレーには限界があった。
 苦戦続きも2人は笑顔を絶やさなかった。福島は広田に対し「痛かったと思うけど。最後までやり切ってくれてありがとう」。広田は「2人でプレーできたことが、幸せだった」と応じた。
 競泳の瀬戸大也は競技初日の400メートル個人メドレー予選で決勝進出を逃し、「日本チームの勢いをそいだ」などの批判を浴びた。瀬戸にも女性問題で出場停止処分を受けた後遺症があった。200メートル個人メドレーはメダルまで僅差の4位。長年のライバル、萩野公介は6位だった。
 リオ五輪では400メートルでメダルを分け合った2人(萩野・金、瀬戸・銅)は、最後のレース後、プールの中で肩を抱き合った。瀬戸は「公介と一緒に泳ぐことができて幸せでした」とすっきりした表情だった。
 実力者たちにとっては無観客開催もマイナスに働いたのではないか。大舞台の経験豊富な選手は、観衆の声援を味方にする術を知っている。スケートボード女子ストリートで優勝した13歳の西矢椛が「無観客だったので、いつもの大会と同じように緊張しなかった」と話したのとは対照的だ。モチベーションの一つとなる地の利を得られなかった。
 大会の1年延期で「重荷」を背負う期間もその分、長くなった。そうした不運の連鎖を嘆いた選手は誰もいなかった。(共同通信・荻田則夫)