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「なでしこジャパン」の現在地と未来 女子プロサッカーWEリーグ理事 小林美由紀

2021.7.31 16:33 共同通信
スウェーデンに敗れ、敗退が決まり、引き揚げる高倉監督(手前)=埼玉スタジアム
スウェーデンに敗れ、敗退が決まり、引き揚げる高倉監督(手前)=埼玉スタジアム
 「なでしこジャパン」が散った。ベスト8止まり、メダルには届かなかった。30日の準々決勝。日本が1次リーグE組3位にとどまったのに対し、スウェーデンは「女王」米国を3―0で破るなどG組を首位で通過していた。東京五輪で一番いい戦いをしてきたスウェーデンと対戦することになって、実はコテンパンにやられるのではないかと不安になった。
 ▽百花繚乱の時代
 前半早々の失点で、不安が現実味を増した。でも、日本はペースを取り戻し、田中美南のゴールで追い付いた。右サイドをコンビネーションで崩す、なでしこらしい得点だった。だが、後半に勝ち越され、結局、1―3で敗れた。
 ここ数年、ジェンダー平等の潮流が女子サッカーに変革をもたらしている。欧州の名門であるマンチェスター・シティ、パリ・サンジェルマン、バルセロナといった多くのクラブが、女子に投資し、チームを強化した。スペインでは、政府が女子サッカーリーグをプロ化することを決定。結果、女子選手の待遇や環境が改善され、プレーのレベルも急激に上がった。
 2019年フランスで行われた女子ワールドカップ(W杯)では、優勝した米国以外にベスト8に勝ち上がったチームは、すべて欧州だった。そして、東京五輪の準々決勝4試合のうち、日本―スウェーデン以外は、延長またはPK戦にもつれる死闘だった。このうち、米国、オーストラリア、カナダが勝ち上がったが、W杯と五輪をそれぞれ4回制覇している米国の「独り勝ち」から、百花繚乱(りょうらん)の時代になった印象だ。
 ▽二つの軸
 一方、日本はコロナ禍で大会前の海外遠征ができず、思ったような調整ができなかった。それでもカナダ戦、英国戦、チリ戦と試合を重ねるごとに、進化していった。体格、体力といったフィジカルで劣るものの、攻守のコンビネーションとテクニックでカバーした。準々決勝の相手が絶好調のスウェーデンだったことを考えれば、なでしこたちの戦術理解、対応力は評価に値する。
 刻々と変化する状況に適応する個々の「考える力と技術」こそ、高倉麻子監督が求めてきたものだ。4試合全てに先発したのはキャプテン熊谷紗希のほか、清水梨紗と長谷川唯の3人だけ。22人の選手のうち、20人をピッチに送り出した。
 こういった選手の起用や交代には、あちこちから疑問の声が上がった。だが、高倉監督は、五輪の大舞台でも自分のスタイルを貫いた。「目の前の勝負」と「選手と女子サッカーの未来」という二つの軸だ。その成果は、近い未来きっと現れる。
 とはいえ、結果が出なかったことは事実。これは、日本女子サッカーの現在地として捉えなくてはならない。
 ▽プロリーグ発足
 9月から、日本では初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が始まる。これまでの「なでしこリーグ」では、ほとんどの選手が昼間は働き、夕方から練習するという日々だった。今回、初めてプロ選手となり、サッカーでお金を稼ぐ女子選手が誕生する。やっと、米国や欧州と同じ土俵に乗る。
 つまり、ここからが、新たな戦いに向けたリスタートとなる。WEリーグは、「WOMEN EMPOWERMENT(女性活躍)」リーグの略だ。高倉監督が理想とする「考える力」を持ち、経済的にも精神的にも自立した女子プロ選手を輩出していくだろう。
 それは、女性コーチやリーダーを育む下地ともなる。第2、第3の高倉監督が出て来るころには、なでしこジャパンの世界制覇が自然とついてくる。
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 こばやし・みゆき 1964年生まれ、神奈川県逗子市出身。筑波大在学時に女子サッカーチームを作る。米国に留学後、関東大学女子サッカーリーグを創設。ジェフユナイテッド市原・千葉レディースマネジャーを経て、2021年より現職。