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「TOKYOへ 世界スポーツ模様」 投てき王国ドイツの新星 やり投げフェター選手  旧東地域出身、反薬物 

2021.8.1 17:00 共同通信
ロンドンで行われた陸上世界選手権の男子やり投げで優勝したヨハネス・フェター選手=2017年8月(ゲッティ=共同)
ロンドンで行われた陸上世界選手権の男子やり投げで優勝したヨハネス・フェター選手=2017年8月(ゲッティ=共同)
 ギリシャ神話の英雄、ヘラクレスのような筋肉をまとった世界王者は「投てき王国」ドイツの新しいスターだ。陸上男子やり投げで2017年世界選手権を制したヨハネス・フェター選手(25)は「できるだけ遠くまで投げたい。東京(20年五輪)でも優勝したい」と目を輝かせる。
 昔は東ドイツだったドレスデンの出身で、ドーピング禍の歴史が残した負のイメージと闘い続ける。クリーンであることを徹底するドイツ陸上界を引っ張る存在だ。
 ▽大きな決断
 チェコやポーランドとの国境に近く第2次世界大戦の空襲で有名なザクセン州の州都で生まれ育ち、6歳で陸上を始めた。ドイツが誇る自動車F1のミヒャエル・シューマッハーやサッカーの強豪バイエルン・ミュンヘンに憧れた少年が、本格的にやり投げに取り組んだのは10代半ばだった。
 フェター選手が生まれた1993年は、すでに東西ドイツが統一された後。しかし、ドレスデンでの練習には古い時代の名残もあった。午前と午後の2部練習は当たり前。負荷の高いメニューばかりで体力が追い付かなかったフェター選手は「旧東ドイツ地域では、ドーピングをしていた当時と同じ感覚で練習メニューがつくられているのではと思うこともある」と吐露する。記録は思うように伸びず、当時は80メートルにも届かなかった。
 2014年、21歳で大きな決断をした。生まれ故郷を離れて旧西ドイツ側のオフェンブルクに拠点を移し、代表チームを指導するボリス・オーベルクフェル・コーチ(44)に師事。1996年アトランタ五輪5位などの実績を持つ同コーチは「ダイヤモンドの原石。私が磨けば、正しい方向に導けるかもしれない」と快く受け入れた。
 ▽最高のモデル
 ドイツにとって投てき種目は、2012年ロンドン五輪と16年リオデジャネイロ五輪で金3個を含む合計8個ものメダルを稼いだ「お家芸」。筋力トレーニングだけに頼らず、適度な休養や栄養バランスを考えた指導の下、フェター選手の才能は開花した。リオ五輪では4位に入り、ロンドンで行われた17年世界選手権では、リオ五輪金メダルのトーマス・レーラー選手(26)=ドイツ=らを破って優勝。自己記録も94メートル44まで更新し、ヤン・ゼレズニー(チェコ)が保持する98メートル48の世界記録も視野に入れる。
 統一前の旧東ドイツでは、社会主義体制下での国威発揚のためメダル量産を狙った国家的なドーピングが横行した。同コーチも「あの過去が、現在のドーピングに対する意識を敏感にしていることは確か」と認める。
 ドイツ陸上界では、選手に対して10代半ばから薬物関連の教育を施すなど反ドーピングへの意識は高い。フェター選手は17年だけで20回以上のドーピング検査を受けたといい、自らを「ガラス張りのアスリート」と表現する。毎日、鏡の前に立ち「君はクリーンな選手だ」と自らをたたえる。
 リオ五輪前にロシアの国ぐるみの不正が発覚するなど、スポーツ界は薬物問題が後を絶たない。オーベルクフェル・コーチは「ドイツでは名誉を重んじる。美徳やモラルの問題だ。ヨハネスは、ドーピングなしでもこれほどの成績が出せるという最高のモデル」と、真摯(しんし)に競技と向き合うまな弟子を誇った。(共同通信=土屋健太郎、2018年4月20日配信)
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 【不滅の世界記録更新なるか】
 男子やり投げのヨハネス・フェターは金メダルの筆頭候補として東京五輪に臨む。予選は8月4日、決勝は7日に実施。1996年に樹立され、不滅の世界記録ともいわれるゼレズニーの98メートル48の更新も期待される。
 リオデジャネイロ五輪は4位とメダルにあと一歩。その後、2017年世界選手権(ロンドン)で優勝。2連覇を狙った19年世界選手権(ドーハ)は銅メダルに終わったが、自己記録は着実に伸ばしてきた。17年に初めて90メートル台を突破すると、新型コロナウイルス禍で異例のシーズンだった20年に世界歴代2位の97メートル76をたたき出した。
 28歳になったフェターは「やり投げは助走路の状態や技術など全てがかみ合わないと95メートル以上を投げるのは難しい。自分にあまり重圧をかけないようにしたい」と、記録へのこだわりは封印して勝負に徹する。悲願の頂点へ「今年の最も大きな目標が五輪。いかにリラックスした状態で大会に臨めるかが大事になる」と静かに燃えている。