下町の人間模様を通り抜け 樋口一葉のまち
おすすめ度:★★★★★
レトロ調・三ノ輪駅の
「椿三十郎」ポスター
ガタンゴトンと揺られ眠くなってしまうところだが、頻繁な乗り降りと、開閉に伴う空気の入れ替えで目がさえる。穏やかに流れる風景は「昭和」が色濃い。都電として唯一残った路面電車・荒川線は、早稲田―三ノ輪橋間の全長一二・二キロに三十の駅。一両編成の車内では「久しぶり」「どちらへ」と、近所同士のあいさつが聞こえてくる。

ワンマン運転なので、降車はボタンを押し意思表示。車いすの男性が乗ってきて、運転席に降車駅を告げる。それでも不安な表情に、近くの乗客が何げなく「大丈夫、押してやっから」。さすが下町、と単純にうれしくなった。
終点の三ノ輪橋から浅草方向へ。低い民家の連なりから、真新しい台東区立一葉(いちよう)記念館が頭を出す。一九六一年にできた旧館を建て直し、二〇〇六年十一月にオープンした。明治の天才作家、樋口一葉(一八七二―一八九六年)を慕うファンが全国から訪れる。現在の五千円札の顔だ。

一葉は花街の吉原に程近いこの地で、荒物駄菓子店を開く。順調とは言えない商売、断ち切れない文学への思い。「廻れば大門の見返り柳…」。人間模様を見つめた経験が代表作「たけくらべ」として実を結ぶ。
書は達筆にして、文は流麗。二十四歳という若すぎる死に、観覧者は言葉少なく感慨深げ。明治中ごろを再現した街並み模型を眺めていると、貧しさの中でも志を忘れなかった一葉の、足早に通り抜ける姿が浮かんで消えた。

【ぽけっとメモ】
5000円札の絵柄を焼き付けた「お札せんべい」(12枚入り500円)と「一葉おこし」(350円)を、一葉記念館前の売店「東栄商会」で見つけた。5000円札は歯応えがあり、やがて甘みが広がる。駄菓子っぽくて、土産にぴったり。何万円か食べられそうだ。
都電は均一運賃が160円。一日乗車券400円もある。一葉記念館は一般300円。 






