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てくてくjapan

ニッポン名場面

2006年06月26日

尾道 人に優しい迷路  

おすすめ度:★★★★★

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尾道港の夕暮れ


 海を背に、坂を上る。自動車はもちろん、自転車も通れなさそうな路地が折れ曲がり続く。地図と標識で確かめながら、目指す目的地。だが何度も立ち止まる。「大人のくせに迷子になるなよ」とつぶやき、ふと考え直した。

 最近、道に迷うことなんてあったっけ? この町は人を優しく包み込む迷路なのだ。さまようことを面白がっているうちに、懐かしい思いがこみ上げた。

 ▽空と海の青
 広島県尾道市。空の青と海の青に恵まれて、戦前から映画のロケに利用されてきた。小津安二郎監督の名作「東京物語」(一九五三年)は、ここに始まり、ここで終わる。笠智衆と原節子がたたずんだ寺の灯籠を見に行く。目当ての場所にそれらしいものはあったものの、映画の構図とは違いすぎる。「境内は様変わりして、灯籠の位置からは海も見えません」。五十年以上たっても、来る人は絶えないのだろう。寺の人の説明はよどみない。

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 それならばと、大林宣彦監督の尾道ロケ作品をたどる。「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」…。男の子と女の子が入れ替わった石段が、原田知世がタイムワープした神社が、数珠つなぎで出現する。運良く、観光案内犬として愛される放し飼いの「どびん」にも出会った。どうしているだろう?

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 生活のにおいは濃い。それだけに、何げない場所を夢の記憶に変えてしまう映画の魔力をあらためて感じた。一方、映画は史実を冷徹に再現する。

 ▽冷徹な史実
 造船所跡に建設された「男たちの大和/YAMATO」(二〇〇五年)の実寸大セット。映画公開に合わせ二〇〇六年春まで限定公開された後、撤去された。総工費は六億かかったという。巨大な構築物は悲劇を無言で語りかけていた。「ウチューセンカン、ヤ~マ~ト~」とくちずさんでいた若者が、沈没海域、戦死者数の表示に押し黙った光景を思い出す。
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 セット横の仮設食堂で食べたのが「海軍カレー」。ほんの少しの肉に、わずかなタマネギ。辛くもない。五百円。それでも寒風にさらされた身にはありがたかった。「ぜいたくは敵だ!」としみじみした。

    ×   ×   
 映画やドラマの舞台になる町には、必ず決め手がある。雰囲気、情緒、景色、人情…。ニッポンどこでも名場面はあるけれど、とりわけ精彩を放つ町並みを訪ね歩く。



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 20代のころ、小津は面白くなかった。黒澤明の方が断然上だった。が、しかし。結婚して子どもが生まれて、家族で長く暮らすと、オズは魔法使いに思えてきた。このごろは見返すたびに、ただただ凄いと思う。もっと知りたくて、笠智衆のエッセーなどを読み、生地の東京・深川を歩き、鎌倉のお墓も訪ねた。世界遺産にしてほしい。え、とっくに評価されているって。でも、小津は年をとらないと本当の味わいはわからないですよ。それは、アンタが●●だから!って無限ループになるのでやめましょう。 IMG_0411%E7%94%BA%E4%B8%A6%E3%81%BF%E5%B0%BE%E9%81%93%E9%A2%A8%E6%99%AF%E2%91%A1.jpg 尾道の町も、巨匠の期待に十二分に応え不滅の時間をフィルムに刻み込んだ。でも、現在の駅前商店街のシャッターぶりには愕然とする。ラーメンはうまいし、人情もあるのだが、夜のあの寂しさは…。決して朽ちてほしくないところだ。