伊勢鳥羽志摩 想像力を刺激せよ
おすすめ度:★★★★★
一度は行きたい夫婦岩
何げなく見上げた一枚の写真―。全国から「お伊勢まいり」に来る人が絶えない町の映画館で、刑事はやっと殺人事件解決の糸口をつかむ。映画「砂の器」(一九七四年)で、犯人と被害者が結び付くスリリングな場面だ。
もし被害者が伊勢に来なければ、もし映画を見に行こうとしなければ…。だが神宮をもうでる人々のにぎわいを見れば、そうした行動にも現実味が伴う。松本清張の原作は偶然のあやを巧みに描き、映画も丹波哲郎と渥美清のやりとりで見せ場をつくった。もっとも撮影に使われた映画館は今はない。宿の外観は夫婦岩で知られる二見浦の旅館で撮影されたという。
▽潮騒
伊勢と並ぶ景勝地・鳥羽。ここでイマジネーションを刺激されたのが三島由紀夫だ。鳥羽から定期船で約五十分の神島は周囲約四キロの小島で、伊勢湾口に浮かんでいる。三島は五三年、この島に滞在した体験から小説「潮騒」を書き上げた。

川端康成への手紙に「『よごれた』ものは何もありません」と三島は記し、映画ロケの際にも再訪した。「潮騒」は五四年から八五年までの間、五回映画化された青春ものの定番。有名なのは吉永小百合主演の六四年版と、山口百恵主演の七五年版で、今も六作目誘致の動きがあるそうだ。ヒロインは誰にする。上戸彩?石原さとみ?綾瀬はるか?
海女の初江と漁師の新治が愛を誓うクライマックスシーンは、旧陸軍の監的哨(かんてきしょう)跡が舞台となった。大砲の海上着弾点を確認するために建設され、戦後はコンクリートの廃虚と化したが、眺めは美しい。吹きさらしの屋上に立ってみる。下は絶壁、囲いはひざ上まで。「こ、怖い」。作家の想像力には及びもつかない。

▽両横綱
鳥羽から南下して志摩へ。映画「喜びも悲しみも幾歳月」(五七年)に登場した大王崎の灯台周辺は、絵かきの町として親しまれている。白くそびえ立つ海の守りが青空に映える。最近では「小さき勇者たち GAMERA」(二〇〇六年)の撮影が行われ、町は沸いた。

ゴジラも第一作「ゴジラ」(五四年)で鳥羽に出現しており、怪獣の両横綱がそろい踏みしたとは、うらやましいような、同情したくなるような。
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尾道 人に優しい迷路
おすすめ度:★★★★★
尾道港の夕暮れ
海を背に、坂を上る。自動車はもちろん、自転車も通れなさそうな路地が折れ曲がり続く。地図と標識で確かめながら、目指す目的地。だが何度も立ち止まる。「大人のくせに迷子になるなよ」とつぶやき、ふと考え直した。
最近、道に迷うことなんてあったっけ? この町は人を優しく包み込む迷路なのだ。さまようことを面白がっているうちに、懐かしい思いがこみ上げた。
▽空と海の青
広島県尾道市。空の青と海の青に恵まれて、戦前から映画のロケに利用されてきた。小津安二郎監督の名作「東京物語」(一九五三年)は、ここに始まり、ここで終わる。笠智衆と原節子がたたずんだ寺の灯籠を見に行く。目当ての場所にそれらしいものはあったものの、映画の構図とは違いすぎる。「境内は様変わりして、灯籠の位置からは海も見えません」。五十年以上たっても、来る人は絶えないのだろう。寺の人の説明はよどみない。

それならばと、大林宣彦監督の尾道ロケ作品をたどる。「転校生」「時をかける少女」「さびしんぼう」…。男の子と女の子が入れ替わった石段が、原田知世がタイムワープした神社が、数珠つなぎで出現する。運良く、観光案内犬として愛される放し飼いの「どびん」にも出会った。どうしているだろう?

生活のにおいは濃い。それだけに、何げない場所を夢の記憶に変えてしまう映画の魔力をあらためて感じた。一方、映画は史実を冷徹に再現する。
▽冷徹な史実
造船所跡に建設された「男たちの大和/YAMATO」(二〇〇五年)の実寸大セット。映画公開に合わせ二〇〇六年春まで限定公開された後、撤去された。総工費は六億かかったという。巨大な構築物は悲劇を無言で語りかけていた。「ウチューセンカン、ヤ~マ~ト~」とくちずさんでいた若者が、沈没海域、戦死者数の表示に押し黙った光景を思い出す。

セット横の仮設食堂で食べたのが「海軍カレー」。ほんの少しの肉に、わずかなタマネギ。辛くもない。五百円。それでも寒風にさらされた身にはありがたかった。「ぜいたくは敵だ!」としみじみした。
× ×
映画やドラマの舞台になる町には、必ず決め手がある。雰囲気、情緒、景色、人情…。ニッポンどこでも名場面はあるけれど、とりわけ精彩を放つ町並みを訪ね歩く。
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