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スポーツリレーコラム

2014年04月23日

“奇跡の4分間”支える―  浅田の名伯楽、72歳の佐藤コーチ  

女子フリーの演技を終えた浅田真央(左)を迎える佐藤信夫コーチ。昨年11月のNHK杯から(2013年11月9日、共同) フィギュアスケート女子の浅田真央(中京大)がソチ冬季五輪のフリーで圧巻の滑りを見せてから2カ月が過ぎた。シーズンが幕を閉じても、たびたびテレビで映像を目にするからだろうか。桜が散り、季節は移りゆくのに、感動の余韻は消えていない。“奇跡の4分間”の主役はもちろん浅田だったが、感極まる教え子をぐっと抱きしめた佐藤信夫コーチの姿も忘れられない。「非常に悩みが多く、大変な時間でした」。3年半の師弟関係を振り返る言葉が胸を打った。
 国民的なヒロインを預かることは、経験豊富な72歳の名伯楽にとっても想像以上に忍耐が必要だったという。世界女王になった娘の有香さん、2011年世界選手権銀メダルの小塚崇彦(トヨタ自動車)ら数々のトップスケーターを育ててきたが、浅田ほど世間の注目を浴びる選手は前例がなかった。既に2度も世界チャンピオンに輝き、老若男女から愛される日本のエース。「基礎から見直すのに数年はかかる」と説いても、われわれメディアを含めた周囲は結果を求めてしまい、浅田本人の焦りも募った。妻の久美子コーチが「お父さんも随分頭が薄くなったわね」と言うように、心労は絶えなかった。
 浅田が練習する愛知県豊田市と指導拠点を置く横浜市を片道2時間半かけて週1回ペースで往復し、シーズンに入ればほぼ毎週のように国際試合で海を渡った。教え子は一部のトップ選手だけではない。むしろジュニアやさらに下の年代にあたる「ノービス」のスケーター、愛好者の方が多い。「真央や崇彦の試合や練習についていけば、その間は他の子どもたちを見てあげられない。新横浜を離れる時はいつも後ろ髪を引かれる思い。それが何よりもつらい」
 そう何度も漏らしたのを覚えている。少しでも教える時間を確保しようと、海外遠征から帰国するとその足で新横浜のスケートリンクに向かうことは珍しくなかった。平日は朝6時から夜10時近くまでレッスンが続く。移動の疲れや時差ぼけもあるはずだが、シーズン中はほとんど休みなしでリンクに立ち続けた。体調管理のために散歩を心掛け、定期的な健康診断を欠かさない。コーチのかがみといえる人だ。
 身を削るような日々にも「私の特技は、いつでもどこでも寝られること」と笑顔を絶やさないから感服した。久美子コーチは「お父さんは5分なら5分と言って、宣言通りに起きることができる。電車の中でも、スケート靴を履いたままコーチ室のベンチでも、気付けば眠っているのよね」と笑い話にしていたが…。
 浅田はスケートに真摯に向き合う佐藤コーチに出会えて幸せだったと思う。いてつく屋外で試合に臨み、海外遠征で欧米との力量差を痛感した時代を知るスケート界の生き字引は、自らの経験を惜しみなく伝えた。定評のある滑りの指導だけでなく、含蓄のある言葉でアスリートの心構えを説いた。3月の世界選手権で4年ぶりに優勝した夜も、宿舎ホテルの部屋で深夜までスケート談議に花を咲かせた。師事したばかりの頃に比べて浅田の選ぶ言葉や表現に重みが出てきたのも、佐藤コーチの影響が多大にあると感じている。
 佐藤コーチは例え話をよく用いる。基礎の重要性を訴える場合は、こんな具合だ。「新横浜には横浜線が走っていますね。多少は揺れるけど、それでも走っている。その上を見たら新幹線が走っていて、こちらは横浜線の何十倍も予算をかけて精密に作られている。だから何百キロというスピードで運行できる。もっとスピードを速くしようと思ったら、時間や費用をかけて精度を高めなきゃいけない。スケートも同じなんです」
 同じ練習を繰り返す意味は、紙を折り曲げながらこう訴える。「一度軽く折っても、手を離せば元に戻ってしまう。毎日毎日コーチは手で押さえているが、練習が終わればすぐに開いてしまう。それを完全に折れ曲がるようにするには、何度も何度も折り目を付けなければならず、相当の時間がかかる。だから、毎日やっている中身を変えず、教える方も教えられる方も我慢できるかが大事になってくる。それは真央にも小さな子どもにも同様に言えること」
 日本代表として出場した2度を含めてソチで11度の五輪を経験した重鎮。興味深い話は尽きない。世界選手権で久しぶりに手にした金メダルを、浅田は感謝の気持ちとともに佐藤コーチの首に掛けた。そして「苦しいこと、すごく悩んだこともあったが、それがあったからこそ喜びがある。5歳から始めたフィギュアスケートが嫌いになったこともあったが、あらためていいなと思った」と感慨を込めた。滑る喜びを取り戻すきっかけを与えてくれたのは、そばで支え続けた佐藤コーチにほかならない。
 浅田が集大成と位置付けて挑んだソチ五輪のフリーの後、佐藤コーチは「まだ教えたいことはいっぱいある。やってあげればよかったということはいっぱいある」と語り、世界選手権を終えると「右に行ったり、左に行ったり、真っすぐに進まず厳しい日々が続いたが、ここにきて歯車がうまく回り始めた」と話した。浅田はまだ、競技を続けるかどうかを表明していない。スター選手を引き受けるは大変だが、いま別れを迎えるのも忍びない―。佐藤コーチの少し寂しげな口調が印象的だった。


【写真】女子フリーの演技を終えた浅田真央(左)を迎える佐藤信夫コーチ。昨年11月のNHK杯から(2013年11月9日、共同)

 

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 井上将志(いのうえ・まさし)2003年共同通信入社。名古屋でプロ野球中日、フィギュアスケートを担当。現在は本社運動部でフィギュア、体操、陸上を中心にカバー。バンクーバー冬季、ロンドン夏季五輪も取材。東京都出身。


2013年08月07日

「ハンドボールをメジャーに」 日本リーグの初代マーケティング部長・東俊介氏  

ハンドボール日本リーグの初代マーケッティング部長として精力的に発展に取り組む東俊介氏(本人提供) ハンドボールを語るとき、この男はとにかく熱い。「魅力のあるスポーツを日本でもメジャーにしたい。そのためにはお客さんがお金を払う価値を感じるリーグにしていかなければいけない」。元日本代表主将の東俊介氏(37)は、大きな夢を抱く。この春、日本リーグ機構が新設したマーケティング部の初代部長に就任し、リーグの収益力の強化という難題に立ち向かっている。

 バルセロナ(スペイン)パリ・サンジェルマン(フランス)ハンブルガーSV(ドイツ)…。圧倒的な人気を誇るサッカーと同じように、欧州ではハンドボールのクラブナンバーワンを決める欧州チャンピオンズリーグ(CL)が毎年開催される。その歴史は50年以上で「ビジネスとして成立している」と言う。地域に密着したスポーツクラブは複数の競技でチームを運営し、大きなマーケットを生み出す。

 対照的に、日本のハンドボール界は典型的な企業スポーツだ。「ほとんどの観客は会社などから“タダ券”をもらって見に来ている。日本リーグは所属するチームの分担金と助成金で食べている状態」と指摘し、将来像を思い描く。「プロ化することが、リーグとして本当の意味での自立を意味する。プロ契約選手のいるプロチームをつくっていかなければ、いずれハンドボールが衰退するという危機感があるんです」

 

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 井上将志(いのうえ・まさし)2003年共同通信入社。名古屋でプロ野球中日、フィギュアスケートを担当。現在は本社運動部でフィギュア、体操、陸上を中心にカバー。バンクーバー冬季、ロンドン夏季五輪も取材。東京都出身。


2012年11月07日

ファンへの情報発信の強化を!  スケート連盟に期待  

ソチ五輪へ向け好スタートを切った日本フィギュア陣。中国GPのエキシビションで笑顔を見せる(手前から)高橋大輔、浅田真央、町田樹。(11月4日、共同) トリノ冬季五輪女子金メダルの荒川静香や安藤美姫(トヨタ自動車)浅田真央(中京大)が火付け役となったフィギュアスケート人気は、高橋大輔(関大大学院)羽生結弦(宮城・東北高)ら男子の活躍も相まって高まる一方だ。チケットの入手が困難な全日本選手権だけでなく、グランプリ(GP)シリーズや世界選手権など海外の試合にも多くのファンが応援に訪れ、観客席に各選手の応援旗や日の丸が揺れる。どの国に行っても、日本選手にはホームでの戦いのような雰囲気が用意されている。

 3日に閉幕したGP第3戦、中国杯もそうだった。尖閣諸島の国有化に端を発した日中関係の悪化で、一時は選手派遣の中止が懸念されたが、日本スケート連盟は警備員の同行などで安全を確保できると判断し、予定通りの出場が決定した。人気選手の浅田、高橋が今季GP初戦を迎えるということもあって、現地の治安に不安が残る中でも多くの日本人が上海に駆け付けた。選手が滞在したホテルのロビーは、いつも通り“出待ち”のファンであふれた。

 危惧された混乱は、全くなかった。むしろ、地元の観客も日本勢に温かい声援を送っていた。世界選手権で優勝している浅田や高橋の人気は思っていた以上に高く、会場の運営に当たったボランティアや中国協会の職員、はたまた地元メディアの記者まで記念撮影やサインを求める状況。国内のみならず、海外でも日本選手の知名度が上がっていることを、身をもって感じた。

 

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井上将志(いのうえ・まさし)2003年共同通信入社。名古屋でプロ野球中日、フィギュアスケートを担当。現在は本社運動部でフィギュア、体操、陸上を中心にカバー。バンクーバー冬季、ロンドン夏季五輪も取材。東京都出身。


2011年11月09日

天才の取材はいつも楽しみ 希代のアスリート、内村航平  

世界体操種目別の床運動で金メダルを獲得、ご満悦の内村航平(2011年10月15日、東京体育館、共同) 体操担当になって2シーズン目。この競技に関わることができて、幸せを感じている。経験者ではないから以前は興味を抱くこともなかったし、記者になるまで生で観戦する機会もなかったスポーツ。でも今は違う。ある選手の存在が、取材現場に向かう足を軽くしてくれている。

 東京で開催された10月の世界選手権で前人未到の個人総合3連覇を達成した男子の内村航平(コナミ)。希代のアスリートとの言葉のキャッチボールが、とにかく楽しいのだ。

 「多くの選手は着地を止めようとするが、自分は違う。着地に至るまでの一連の流れが大事。そこさえしっかりとやれば、自然と着地は止まる」

 

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井上将志(いのうえ・まさし)2003年共同通信入社。名古屋でプロ野球中日、フィギュアスケートを担当。現在は本社運動部でフィギュア、体操、陸上を中心にカバーし、バンクーバー冬季五輪も取材。東京都出身。


2011年08月24日

「イケメン」に注目 五輪目指すトランポリン男子日本代表  

itou.misei.jpg ロンドン夏季五輪の開幕まで1年を切った。各競技で出場権を懸けた戦いが本格化し、注目度が一気に高まったサッカー女子のアジア最終予選も、もうすぐ始まる。メダルが期待できそうな競技は? と聞けば、お家芸の柔道や体操、水泳、レスリング、それになでしこジャパンといったところが挙がるだろうか。だが、意外と知られていない有力競技もある。

 「トランポリン」。縦4メートル、横2メートルほどのベッドと呼ばれるマットの上で連続して10回の跳躍を行い①回転やひねりなど技の難度②空中姿勢など演技の正確さ③空中での跳躍時間―の3要素を得点化して合計で競う。五輪では2000年シドニー大会で正式に採用された。

 小さいころに遊具としてトランポリンで跳びはねた経験もあるのではないだろうか。ただ、競技となると別世界。男子のトップ選手なら、跳び上がった高さは、ビルの3階に相当する約8メートルに達する。跳躍のバランスが少しでも崩れれば、外枠に激しくぶつかってしまう。空中で見せる華やかさからは想像できないほど危険と隣り合わせで、美しさとスリルを味わえる競技だ。

 

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2011年05月11日

「可能性を信じて」現役続行へ フィギュアスケートの高橋大輔  

 ある男の言葉に、思わず「かっこいいな」とつぶやいてしまった。4月末。モスクワでの出来事だ。
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 「きれいにスケート人生を終えられないかもしれないが、できるところまでやってみようかな。今より落ちるかもしれないが、勝負してみたい。自分の可能性を信じてみたい」

 言葉の主は、フィギュアスケートの高橋大輔(関大大学院)。2連覇を狙ったロシアでの世界選手権で5位に終わり、去就が注目される中での発言だった。25歳のおとこ気に触れ、胸が熱くなった。

 

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2011年02月09日

思い出は「金姸児の隣に立てたこと」 今季限りで引退の沢田亜紀  

 浅田真央(中京大)の復活に沸いた昨年12月のフィギュアスケート全日本選手権。女子フリーがあった26日は、関東地区で瞬間最高視聴率38・6%を記録する注目度の高さだった。世界選手権(3月・東京)の代表3枠をめぐる熱戦がお茶の間をにぎわせる中、かつて浅田とともに世界を舞台に戦った1人のスケーターが、全日本選手権の銀盤に別れを告げた。
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 沢田亜紀。2004年から3大会連続で世界ジュニア選手権の日本代表に選ばれ、シニアのグランプリ(GP)シリーズにも出場した。欧州を除く地域の選手で争う四大陸選手権で4位の好成績も残した22歳だ。弾むように氷上を舞い、勢いよくジャンプを跳ぶ姿は〝元気はつらつ〟という言葉がぴったり。そんな関大文学部の4年生が、16年間の競技生活に今シーズン限りで終止符を打つ。

 8年連続で出場した最後の全日本選手権は、フリー進出ラインぎりぎりの24位でショートプログラムを通過した。もう1日滑ることができるチャンスに感謝しながら迎えた1番滑走のフリー。彼女は、本番直前の6分間練習から涙で頰をぬらしていた。「どわーっと出てきちゃって…。大ちゃん(高橋大輔)に、泣くのが早すぎるって笑われました」

 ここ数年は成績が振るわず、国際舞台から遠ざかっていた。軽々とジャンプを跳んでいた全盛期のような演技はできない。それでも、彼女を知るファンは、全日本でのラストダンスに温かい拍手を送った。

 

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