偉業へ異なるアプローチ レスリングの吉田沙保里と伊調馨
ロンドン五輪で日本女子として史上初の3連覇に挑むのがレスリングの吉田沙保里と伊調馨(ともにALSOK)だ。競技採用された2004年アテネ、08年北京、両五輪を制して現在も絶対的な強さを誇る2人だが、ロンドンに向けては「五輪3連覇」を明確な目標として北京直後に公言した吉田に対して、伊調は探求するレスリングを「多くの人に見てもらう場」ととらえている。異なるアプローチの仕方が興味深い。
女子で3連覇に初めて挑んだのは、現在参議院議員を務める柔道48キロ級の谷亮子さん。5大会連続で五輪に出場し、00年シドニー、アテネで日本女子として初めて連覇した。しかし北京では金に届かず銅メダルだった。その谷さんをテレビで見て五輪を目指すようになった吉田は、20歳で初めて勝った世界選手権から9大会連続で優勝するなど、休むことなく闘ってきた。勝ち続けることでライバル不在となっても「誰もやったことがないことやりたい。挑戦できるのは私だけ」と記録と正面から向き合い、モチベーションの維持にもつなげてきた。
08年1月に中国で行われたワールドカップで119連勝が途切れたものの、北京五輪は圧勝。昨年の世界選手権や五輪代表を決めた全日本選手権はともに決勝での苦戦を「このままでは駄目だというのを教えられた」と前向きに考えて、自慢の高速タックルのほかにポイントを取るための攻撃に磨きをかける。五輪3連覇を果たしたら、その約1カ月後にカナダで開かれる世界選手権でさらなる記録達成を目指す。五輪と世界選手権合わせて12大会連続で優勝し、人類最強といわれた男子のアレクサンドル・カレリン(ロシア)を超える、世界大会13連続Vへの挑戦だ。
伊調の過去の五輪は姉の千春さんと一緒に金メダルを取ることが夢で「勝つためのレスリングばかり考えていた」という。それがかなわず、北京後はカナダに留学して1年あまり実戦から離れて充電。姉が地元、青森県八戸市の高校教諭となり一人で東京を拠点にすると、練習場所を求めて男子の合宿にも積極的に加わるようになった。そこで見た技の多彩さに「女子とはまったく違う。まだまだ知らないことばかりだった」と衝撃を受けた。
それからは相手の攻撃に対応して得点したスタイルから、積極的に攻撃を繰り出して試合を進めるようにと変わった。参加した男子合宿では、早朝から夕方まで同じメニューをこなす。練習後も熱心に選手やコーチから話を聞きながら、技の習得に励む熱心さに、男子の佐藤満強化委員長が「世界一になるにはこれくらいしないといけないと、男子にとっても手本になる」と舌を巻くほどだ。その探求心が今の伊調にとっては最大の原動力で「やってきたことをどこまで最高の舞台で出せるか。3連覇と言われても『ああそうか』という感じ」と力みはない。
12年1月1日、日本レスリング協会は五輪イヤー恒例の元旦練習を公開した。ことしのテーマを吉田は「ゴール」、伊調は「自分に挑戦」と表現した。ロンドン五輪まで吉田は国内で課題に取り組みながらじっくりと調整し、伊調は1月のロシアで開かれた国際大会に出場して優勝するなど積極的に実戦をこなして向かう。登場するのは伊調が1日早く8月8日になる。2日連続で歴史的な瞬間が見られるかもしれない。
【写真】世界選手権の金メダルを手に喜びの吉田沙保里(右)と伊調馨(2011年9月16日、イスタンブール、共同)
城山 教太(しろやま・きょうた)1976年生まれ。札幌市出身。00年共同通信入社。京都、鳥取、広島支局で警察、行政などを担当して10年春に運動部へ。現在はレスリング、スキーなどをカバーする。
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