切磋琢磨し、互いに向上 皆川が佐々木の刺激に

競技者に欠かせない闘争心に火を付けるため、力になるのが身近なライバルの存在だ。今季のスキー取材を続けながら、それを強く感じている。
アルペンスキーのワールドカップ(W杯)で日本勢最高の2位に3度入った実績を誇る佐々木明(ティーシーエス)が、今季途中からレベルアップした滑りを見せている。①急斜面②アイスバーン③視界良好―の条件に恵まれれば、近いうちに2シーズンぶりの表彰台に上れるはずだ。
昨季は不振だった。印象に残っているのが、シーズン序盤に佐々木が「兄貴分」と慕うA氏が漏らした「賢太郎がいないのが痛い」のひと言だ。A氏は、昨季が始まった途端に大けがをして残るシーズンを棒に振った皆川賢太郎(アルビレックス新潟)の不在が、佐々木に影響することを予見していた。
練習でタイムを競い、大会で結果を出して切磋琢磨(せっさたくま)する。佐々木は北海道・北照高時代から先輩の皆川と刺激し合ってきた。「永遠のライバル」を一時的にも失い、眼光から鋭さが消えたように見えた。
今季、皆川が復帰して、誰よりも歓迎しているのが佐々木だろう。「賢太郎さんは練習ですげえ速いよ。今に(上位に)来るね」と強く意識し、自身も昨季よりずっと練習に熱を入れている。
世界に目を向けると、同じようなケースに気付く。今季のW杯アルペンスキーはフランス勢の台頭が著しいが、これもチームメートの競争のたまものだ。ジャンバプティスト・グランジェは、男子回転第3戦で初優勝を遂げ、勢いづいて回転第6戦まで3勝。同僚のジュリエン・リゼルーも昨季までは無名だったが、回転第6戦で自己最高の4位に食い込むなど健闘している。
今季のグランジェの滑りは神懸かり的だ。皆川は「ほかの選手が(旗門を)大きく回り込むところを、思い切りスキーを踏んで(方向転換して)いる。あれが出来るのは相当な自信があるから」と説明する。そんな滑りを間近で見るリゼルーが奮起するのは当然だろう。グランジェも「僕だけでなくチーム全体の調子が良いので、負けられない気になる」と好循環を口にする。
ノルディックスキーのジャンプでは今季序盤、オーストリアのトーマス・モルゲンシュテルンとグレゴア・シュリーレンツァウアーの2人だけが別次元で飛んでいた。日本チームのユリアンティラ・ヘッドコーチにオーストリア勢の強さについて聞くと「正直なところ、理由は分からない。ただ、誰かが飛び出すと周囲も引き寄せられるものだ」と答えが返ってきた。
ライバル関係は「特に仲良しではないが、互いを認め合う」という微妙な距離感が理想かもしれない。例えば、男子回転の五輪王者ベンヤミン・ライヒと世界選手権覇者マリオ・マットのオーストリア勢。2人は練習ですごい火花を散らし、終わってもほとんど目を合わせて会話をしない。昨季はずっとそんな感じで、最後まで回転の種目別優勝を争った。
佐々木と皆川は性格が違うし、プライベートでの付き合いはほとんどない。ただ、互いの実力を誰よりも高く評価し、負けないように努力を続ければW杯でも優勝できるとわたしは信じている。
【写真説明】W杯の難コースに挑む佐々木明(上)と皆川賢太郎
戸部 丈嗣(とべ・たけつぐ)1972年生まれ。2004年11月からローマ支局。サッカーとスキーを主に取材。サッカー担当としてはJリーグで横浜M、イタリアが優勝した2006年W杯を取材
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