「粛」から「祝」へ変化期待 伝えたいのは土俵の熱気
正月に届けられた年賀状には、「昨年は大変でしたね…」「今年こそ穏やかな1年になればいいですね…」との言葉が添えられたものが多かった。わたしも「騒動続きで大変でした」といったメッセージをたくさん書いた。もちろん双方とも、大相撲を意識してのものである。
昨年の今ごろを振り返ってみる。良くも悪くも、大相撲はあまり注目されていなかった。朝青龍の独走は一段落し、大関昇進時に高い人気を誇った琴欧洲は伸び悩み、当時は大関の白鵬は休場明けで初のかど番。そして、わたしも何となく正月気分が抜けないまま、1月7日に初場所が普通に始まった。まさに「嵐の前の静けさ」だった。
賜杯レースも淡々と進み、朝青龍が史上5人目の優勝20回を難なく達成。しかし、ここからだった。千秋楽翌日の22日に朝青龍を中心とする「八百長疑惑」報道が週刊誌で繰り広げられた。年6回ある大相撲の本場所は奇数月だから、相撲記者にとって偶数月は少し息抜きができる期間。それが息を抜くどころか、息をつかせぬ日々が初場所直後に幕を開けた。
朝青龍騒動や時津風部屋の力士死亡問題など、その後のトラブルは周知の通り。騒ぎに埋もれてしまったが、大関栃東の病による無念の引退劇や白鵬の横綱昇進、琴光喜の大関昇進と土俵の中もそれなりに動きがあった。こんなふうにして、季節の移り変わりを感じる暇を与えてくれないほどに、角界は次から次へと取材テーマを提供してくれた。
騒々しい1年が終わり、物思いにふけりながら年末年始を過ごしていると、ふと気が付いた。テレビに出演する力士をほとんど見かけなかったことだ。わたしが知る限り、白鵬と千代大海が1本ずつ出ていた程度。ある幕内上位の若手力士によると、人気の浅尾美和とビーチバレー対決する番組企画が持ち込まれたものの、日本相撲協会の許可が下りなかったという。この力士は「楽しみにしていたんですが、今の相撲界の状況を見れば仕方ありませんよね」と話した。
実は、相撲協会広報部は民放各局に力士のバラエティー番組への出演を断る通達を出していた。もちろん理由は騒動による「自粛」。いろんな意見があると思うが、わたしは大賛成だ。昨年や一昨年などは、みんな明らかに浮かれていた。テレビに出まくる朝青龍は千代大海らと細木数子さんの番組で共演して大笑いしていたし、人気絶頂期の琴欧洲は何かに取りつかれたかのようにバラエティー番組を行脚。お笑いグルメ番組で「まいうー」とおどける姿を見た時は、思わず目を背けてしまった。
そういう意味では、騒動が続いたせいで、相撲界全体が少しは引き締まったのではないか。これだけ問題が山積する中で、たとえば人気力士がテレビ番組で「おっぱっぴー」とやったら、どれほどの苦情が殺到するだろうか…。番組出演を自粛して、つくづくよかったと思う。
さらに、年末にはプロスポーツ大賞の受賞も自粛。北の湖理事長(元横綱)は「今は前に出ない方がいいんだ」とつぶやいた。2007年の世相を表す漢字一文字が「偽」なら、08年の角界は「粛」かもしれない。失墜した信頼の回復と汚名返上に向け、親方や力士は今年こそ「粛々」と相撲道に打ち込んでほしい。テレビ画面の中よりも、土俵の中で奮闘する男たちの姿をわたしは伝えたい。必死な思いがファンに理解されれば、今年の終わりには「粛」が「祝」の字に変わるはず―。昨年のように、角界が世間のひん〝しゅく〟を買わないことを、相撲記者として切に願うばかりだ。
【写真】約3カ月ぶりに再来日し、記者会見で高砂親方(右端)とともに頭を下げる横綱朝青龍=2007年11月30日午後6時すぎ、東京・両国国技館
田井 弘幸(たい・ひろゆき)1973年生まれ。大阪府出身。96年に入社。大相撲担当からプロ野球の阪神、中日担当を経て、2002年から大相撲に復帰。
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