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スポーツリレーコラム

2007年10月10日

「中東の笛」はまだ続く? 拡大するアラブの政治支配  

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 「中東の笛」と呼ばれる不可解な判定がアジアのハンドボール界で問題になって久しい。9月の北京五輪男子アジア予選(愛知県豊田市)ではクウェート―韓国の試合でヨルダンの審判員が中東びいきとみられる判定を繰り返し、在韓クウェート大使館前で判定に抗議するデモに発展した。

 サッカー界では八百長問題がイタリアを揺るがしたばかりだが、競技の特性で足と手の違いがあるとはいえ、問題の本質に迫る対応はどうも生ぬるい。アジア・ハンドボール連盟(AHF)はクウェートの王族が事実上支配し、トップに座るのはアジア・オリンピック評議会(OCA)会長でもあるシェイク・アーマド氏。アジア・スポーツ界で広がるアラブの政治支配が背景にある。

 ▽すべてシナリオ?
 世界陸上(大阪)の直後、取材で訪れたアジア予選の会場はAHFのブレザーを着た中東の幹部ばかりで「ここは日本?」と驚いた。「すべて勝敗は事前に仕組まれ、大会のシナリオができているんだ」。同じ中東出身ながら現状を疑問視するAHF関係者の一人が打ち明けた。真偽のほどは定かでないが、確かにAHFで今や東アジアの発言権はなく、審判員を選択する技術委員会などで飛び交う言語もアラビア語という。アジア予選の審判員は6カ国のうち中東4カ国で東アジアからゼロだった構成も公平さに欠け、サッカー界では考えられないことだ。

 「特に最近の韓国つぶしは露骨。実力ナンバーワンだから」と日本協会関係者は語る。昨年12月のドーハ・アジア大会では男子準決勝で6連覇を狙った韓国が地元のカタールに28―40で敗れ、韓国オリンピック委員会(KOC)がクウェート審判員による不公正判定があったとして再試合を要求する騒動もあった。

 日本にしても20年ぶりとなる五輪の夢をかけた今回のアジア予選で熱烈な応援はあったものの、約1億円を投じた地元開催の利などなかったに等しい。最重視したクウェート戦で国際ハンドボール連盟(IHF)を通じて中立の欧州から招いたドイツの審判員を要望したが、これをAHFが却下。笛を吹いたのはイランの審判員ペアだった。日本の蒲生晴明団長は「何のためにわざわざ招いたのか」と疲れ切った表情で悔しがったが、舞台裏での駆け引きに始まり、こうした「対外発信」の課題は日本が抱えるスポーツ政治力の弱さを象徴する出来事だった。

 ▽柔道もクウェート
 世界への影響力が懸念される柔道界でも中東の勢力が増している。欧州連盟は5月のアジア連盟の会長選挙でクウェート人のオバイド・アンジ氏を支援し、日本から立候補した佐藤宣践・全日本連盟副会長は敗れた。

 国際柔道連盟(IJF)の新会長に就任したマリアス・ビゼール氏(オーストリア)は対立した朴容晟前会長(韓国)を支持した日本に厳しい姿勢を取り、朴氏の後継者と目された山下泰裕をも敵対視した経緯があるという。「競技力の東アジア、政治力の西アジア」という一見不自然な構図で語られたのも今は昔。オイルマネーがもたらす豊富な資金力をバックに西アジアは競技力の躍進も著しい。ハンドボールの日本リーグ男子の某監督は北京五輪への道を断たれた今回のアジア予選で「中東の笛」に泣かされたとされる大方の見方について「選手が“中東の笛”を警戒しすぎ、あれだけ無防備でシュートを打たれたら負ける。欧州スタイルのクウェートが実力でも執念でも上だった」と異論を唱えた。日本と韓国は「中東の笛」の問題をIHFに提訴する構えだが、いずれにしても日本はさらに競技力を高め、IHF内でも発言力を持つしかない。かつてこうした問題を乗り越え、改革を重ねて国際的な立場をつかんだサッカーが手本だろう。

 東京都が立候補した2016年夏季五輪招致でも、潤沢な資金力でスポーツ立国を目指すドーハ(カタール)は微妙な存在だ。日本側は「全く問題ない」(日本オリンピック委員会幹部)と妙に楽観しているが、中東の小国が強い結束で動けばアジア代表として戦いたい東京とのつぶし合いになる可能性もある。

 先の世界陸上(大阪)でも有力代理人や多数の国際オリンピック委員会(IOC)委員が訪れ、日によって空席の目立った観客動員や運営上のトラブルに日本での五輪開催を疑問視する声を聞いた。「中東の笛」はハンドボールにとどまらず、さまざまな問題を暗示しているのではないか。

【写真】北京五輪男子アジア予選の日本―クウェート戦で審判員の中東寄りの判定に、「フェアプレー」を求める日本のファン=3日、豊田市総合体育館


田村 崇仁(たむら・たかひと)1973年生まれ。群馬県出身。02年W杯まで主にサッカー担当。プロ野球担当を経て、05年から日本オリンピック委員会(JOC)や五輪競技などを担当。


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